8人が本棚に入れています
本棚に追加
ザァーザァー食洗機をフル稼働させながら、私は返却してくる皆と挨拶を交わす。
『あ~美味かった。腹いっぱい』
いつもの彼が、出てもいないお腹を擦りながら言う。この子は毎回完食する好き嫌いの無い子。好き嫌いなく完食する子の方がやせ型だったりする事実。
「ありがとう、良かったね」
そして、次に現れた子は肩までの髪の綺麗な女の子。
『人参甘かった。美味しかったです』
「良かったね。皆の作った人参よ」
まだ何か話足りない感じで、いつも彼女は少し間を空ける。年頃の美少女との会話のネタを私は必死で探すが、しまった……。今日はまったく思い浮かばない。彼女はじっと私の顔を見て、何か言うのを待っている。
「さ、最近は残さずに食べられるようになったね」
彼女のカラの食器に笑みを見せるのが限界だった。
『美味しかったですぅ。またよろしくお願いします』
次は少しふくよかな彼が気恥ずかし気に持ってきた。
以前の彼の言葉は『残してごめんなさい』だった。近頃は随分と野菜が食べられるようになったのか、今日も完食だ。
「はい、ありがとう。皆の作った野菜だから美味しいよね」
刷り込み効果の如く、強調する。
『毎回、同じ野菜ばかりだ』なんて、嘆いている子もいるのかもしれないけれど、彼らは優しく、礼儀がある。自分たちが作っているという誇りだってあるだろう。長年勤めているが、実際に声を聴いたことは一度として無いのだ。
心無いことを言うのはいつも彼らではない。
最初のコメントを投稿しよう!