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 翌日部屋に帰ると、壁越しに帰宅を察知したのかすぐに悠斗が来て、そのまま悠斗の部屋に引きずり込まれた。 「晶さん、すごい気持ちいい」  明りの落ちた悠斗の部屋に淫らな水音が響く。腰を強く押し付けられれば、さっき悠斗が吐き出した精がぐちゅ、と音を立てて晶の蕾の淵から溢れてくる。 「んっ、も、無理だって……」  夕飯どころかシャワーの時間すら与えてもらえず、ベッドに組み敷かれた晶は、悠斗の二度目の精を受け止めた後、思わず泣きごとを漏らした。 「そっか。一日働いて、まだご飯食べてないもんね。ごめんね」  悠斗がそう言ってキスをするが、中に入ったままのものはまだ元気だし、抜くつもりもないようだった。  けれど自分を労わってくれているのはわかったので、まあいいか、と晶はそのまま目を閉じた。 確かに悠斗のことは嫌いではない。一緒にいて楽しいし、自分を救ってくれた大事な人だ。だからといって恋人でもない相手にセックスを許すなんて今までの自分からは考えられなかった。 けれど今、全部を許してしまっている自分がいる。 「晶さん、俺ね、今すごく幸せ」  耳元で囁くように悠斗が呟く。その言葉に閉じていた瞼を開けると、嬉しそうに微笑む悠斗の顔が見えた。その瞬間、晶の胸の中にふわりと小さな明りが灯ったような、暖かな気持ちになる。しばらく感じていなかった感情が晶の中に芽生えた気がした。言葉にするなら愛しい、というのか――そんな風に思い、晶は悠斗の後頭部を片手で引き寄せて、その唇を自分のそれで塞いだ。 「歌って、悠斗くん」 「いいけど……どうして俺の歌なんだろうね」 「んー……それ、僕も考えたんだけど、うちの母親音痴なんだけどよく鼻歌歌ってて……家にいるみたいで安心するのかも」 「俺、晶さんの母親?」  晶の言葉に悠斗が笑う。それから、それでもいいや、と言って、晶を抱きしめた。  その夜、晶は悠斗の腕の中で掠れた歌声を聞きながら、穏やかな眠りに落ちていった。  悠斗に抱かれたその日から、悠斗とはほぼ毎日どちらかの部屋で会っていた。一緒に夕飯を食べ、他愛もない話をして眠る。セックスをするしないはその日によったが、必ず悠斗の腕の中で歌声を聴きながら晶は眠りについていた。  それが二週間も続くと体調はとてもよくなり、顔色はもちろん、食欲も出て、うっすら浮いていた肋骨も消え、晶は鏡の前でにんまりと笑んだ。背もさほど高くないのに華奢だなんて男としては悔しかったので少し嬉しい。 「晶さん、ご飯食べよ」  洗面所に顔を出した悠斗が、悪戯めいた笑顔でこちらに声を掛けた。見られた恥ずかしさに、頷くだけでそそくさと手にしていたシャツを羽織る。 「晶さんは、そっち座っててよ」  まるで新妻のようにせっせとキッチンで働く悠斗を見ていると穏やかな気持ちになる。こんなふうに誰かと過ごすことは家族から離れて以来で、今のこの時間がなんだかとても愛しいと思えた。 「晶さんちゃんと食べてよ。体力つけてもらわないと、無理させられないし」 「無理って……?」 「セックス。やっぱりもう少し長くしたい。晶さん体力ないから今まで我慢してたけど、最近調子よさそうだしいいよね?」  いいよね、と聞かれて晶は迷った。 やっぱり自分の体は歌の対価であるのだと思った。悠斗にとって自分とのセックスは人助けの延長、もしくは見返りで、自分には何の感情も抱いてない――そう思うと、晶は少し胸が痛んだ。 悠斗がくれる温もりも優しさも全部嘘になるような気がして、寂しかった。 曖昧なこの関係は、悠斗にとってどんなものなのだろう――自分がほのかに感じている淡い想いとは違うのかもしれない。晶は一度唇を噛んでから遠慮がちに聞いた。 「……あ、あのさ、悠斗くんは僕のこと、どう思ってる?」  晶が思い切って聞くとテーブルをはさんだ向かいに落ち着こうとしていた悠斗が動きを止めた。それから晶の顔を見つめ、ゆっくりと口を開く。 「晶さんは、俺のことどう思ってるの?」  まさか質問に質問で返されるとは思ってなくて晶は一瞬戸惑う。それからゆっくり口を開いた。 「……恩人だよ。それからお隣さん」  つい、逃げてしまった。自分だけが悠斗のことを愛しいと感じているとしたら、大人として、年上として、そんなことも割り切れないのと笑われたら情けない。だから本当の気持ちは言えなかった。 「だってほら、僕を抱くのだって、報酬みたいなものだろう?」  晶が答えると悠斗は、そっか、と小さく呟いてから、ごめん、と立ち上がった。 「晶さん、そんなふうに思ってたんだ……俺は晶さんのこと、お隣さんだなんて思ってなかった。ごめんね、今日は帰って」  そう言うと悠斗はすぐに洗面所へ入り、ドアを閉めた。明らかな拒絶の空気に、晶は固まってしまう。じゃあ何だと思っていたのか、と考えるがその時の晶には分からず、結局立ち上がってこの部屋を出るしか思いつかなかった。 「悠斗くん……」  晶はドア越しに呼ぶことしかできず、悠斗の部屋を後にした。
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