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その日から一週間が過ぎた。あれから悠斗が部屋を訪ねることもなく、顔を合わせることもなかった。思えば悠斗とは連絡先も交換していない。すぐ隣に住んでいて、毎日顔を合わせる関係というのは、スマホすらいらないのだなと改めて感じた。けれど、今になってみれば、ラインくらい聞いておけばよかったと思っていた。
「飯塚さん、また痩せました? 一時戻ったと思ったのに、また調子悪い?」
事務仕事を終え、商談の準備をしていると、同僚にそう声を掛けられた。確かに一度はぴったり着ることができていたスーツも、今は少し中で体が泳いでいる。
「なんだか、食欲なくて」
ここ数日は眠れないせいで食欲もなく、昨日寝る前に見た鏡の中の自分の顔もどこか青ざめていて、自分でも見たくないと思った。
「誰かと食事すると食べられることもあるみたいですよ。今度、みんなで夕飯行きましょう」
「え? 僕と?」
「はい。飯塚さん、こっち来てすぐは声かけられないくらい近寄るなってオーラ出してたけど、最近は穏やかになりましたよね。体調良くなったお陰かな? って思ってたんですけど」
違いましたか、と同僚が苦く笑う。晶はそれに大きく首を振った。
「ごめん、なんか、気を遣わせてたみたいで。うん、僕でよかったら今度食事、誘わせて」
晶が微笑むと、同僚は嬉しそうに笑んで、ぜひ、と頷いた。
きっと、自分の雰囲気が変わったのは、体調だけではない。悠斗と過ごしていたからだろう。彼のお陰で眠れるようになった、それだけではなくて、誰かと一緒に過ごす楽しさや嬉しさを思い出させてくれて、幸せな気持ちになれたこと、それが多分大きいはずだ。
――悠斗くんに会いたい
晶はそう、強く思った。
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