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山を登るにつれて、雪深くなってきた。
「それにしてもあたし雪を初めて見たわ。たのしーい☆」
メイはサクサクと地面に足跡をつけてゆく。
コウとキャロルが交代で馬車に入り、
あとの二人が入れ替わり護衛に回った。
馬車の左側でくしゅんとくしゃみが聞こえる。レザーマントで防寒したリーディがくしゃみをしていたのだ。
「大丈夫・・?」
ステラはムートン素材のマントのフードを被りつつ、声を掛ける。
「あー・・・やっぱり雪は慣れねーな
っていうか、こっちの方すごい積りよう・・・。」
「こんなのまだ積もってない方よ。」
にっこり笑うとバルッシュの手綱を引いてステラは歩く。雪を踏みしめる音も慣れた風である。
それを呆然と見つめて彼は寒さに耐えられずに手から種火を出して暖を取った。
一面の雪景色になってゆくにつれ、いままで獰猛だった魔物も成りを潜め代わりに彼らの進行が遅くなった。足元が雪に捕われる。
バルッシュも歩きにくそうだ。
―もし家が無かったら…別の町に移動するしかないわ…
移動呪文は完全ではないが使えるようになった彼女はそう考える。山降りるにも一苦労だし、家がなくなっていたとしても、母の簡素な墓は残っているだろう。久しぶりに挨拶したい。彼女はそう思っていた。
* * *
一方で・・・
混沌とした空気に包まれる魔界にて。
-ディーダが…。
繭から復活したリスナーは少し焦りを覚えた。
おまけにインバー神が復活したというのではないか。
幸い我が従妹は封印が何かまではまだ知らないようだ。それに、封印を解くにも五大神を復活させなければならない…
リンデルの半漁人や絶海の孤島の巨人(ティタニオン)はああでも、
ほかの魔物はそうはいかぬ。
それに…きゃつらが捜している最後の封印を解くものについてはこちらで誰なのかは目星がついて、手を打ってある。
最終的な予言の封印を解くにはきゃつらには様々な障害があるというわけだ。
何故なら封印そのものを解くときに、五大神の封印も解いたうえで、その受け継がれた
貴石の持ち主も共に存在しなければならないからな…。
何れ奴らはベルヴァンドへ向かうであろう。
まだ時間は十分にある…。
リスナーは静かにほくそ笑んだ。
銀の髪をなびかせて虚無の魔城に降り立つ彼は本物の魔族の皇子宛(さなが)らだった。
* * *
山を登り始めて数日。そしてついに、中腹にたどり着く。
「メイもリーも寒かったらキャロルに交代してもらっても。」
ステラは温暖な地域で育った二人を気遣いそう言った。
「そう?はー…ここらはもう魔物は出なさそうだし馬車に入っちゃってよい?」
メイはさすがに寒さがダメらしく遠慮なくそう答えた。雪は物珍しく嫌ではないが、寒さには敵わない。
「交代するまでもないんじゃね?キャロルが俺らより寒さに強くとも体力が心配だから、俺ら二人でどうにかするか。」
ステラは頷いた。雪に慣れないとはいえ彼は数年北の大陸で暮らしていたからまだ大丈夫なようである。
幸いあれからも魔物は出てこず、ゆっくりだが雪を掻き分けて進んだ。
あと少し、もう少しと言い聞かせながら。
そして最後の山道を駆け上がった先…
…ステラの懸念は杞憂だった。
雪に覆われたその小屋は、まだ残っていた。
彼女が旅立ったままの姿で。…大分雪に覆われていたが。
「ここか…」
リーディは目を見張る。
―こんな人里離れた山奥でステラは暮していたのか。どおりで俺が捜していた3年間見つからなかったはずだな。
ふと彼が横のステラを見ると、少しほっとしたようだが神妙な面持ちだ。
此処を出て旅立った時のことを思いだすと複雑な気持ちなのだろう。
まっさらな雪の上を掻き分けて扉の前まで行くと、ステラは鍵を取り出して
飛葉の木で造られたそれを解錠した。
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