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―カチリ。 錠前は静かに開いた。 ステラは久しぶりの我が家に足を踏み入れる。続いて、リーディとキャロルが。メイとコウも遅れて中に入る。  部屋の中は急いで出て行ったままの姿であった。にしても整然とした居間に、壁で仕切られて二間部屋があった。  居間には質素なテーブルと椅子と長椅子。ちょっとした棚。仕切挟んだ土間に、水回りと釜が設置されている。土間のスペースは意外と広めで薪などが備蓄されていた。  土間の勝手口を出ると、そこには井戸があった。地下の水の方が外気よりも温かく、どうにかそれは使えそうだ。 「へぇ、なかなか住むにはきちんと建てられている住まいだね」  コウが職業柄なのか、つい色々観察する。 「母がここに以前住んでいた猟師さんから譲ってもらったんだって。」 奥はステラの寝室と母の寝室だ。 ここも机と椅子にチェスト、ベッド。槍を立て掛けるスペースも設けてある。 ・・・確かに造りはしっかりしているが随分質素な住まいだな。 王女たるものがこういう暮らしを受け入れるまで苦労しただろうに。 リーディは心の中でごちた。王族である自分も仮屋での生活は似たようなものであったが 帰る場所(城)はあった。しかしステラの母は滅ぼされた王族の最後の生き残りだった。 帰る場所も無く大事な一人娘を育ててゆくしかなかったわけで。 「にしても・・・さっむーい!ステラぁ、とりあえず暖炉に火を点けよう!それからだよ!」  メイがぶるぶる震えながら叫んだ。 「あ、そうだね。」 「薪は・・・土間にどうにか使えそうなものがあったよ。」 コウがきちんとチェックしておいたようだ。 ―にしても・・・小屋の外観と部屋の中に入った時の違和感は何だろうか? 天井の・・・高さか? リーディは周りの仲間が部屋の中で色々動いているときに、ふとそう感じで天井の方を見上げた。 「リーちゃんー、ぼさっとしてないで早く火を点けて!寒い寒い!!」 メイに言われてふと我に返る。 考え事をしている間にステラとコウが薪を運んできていた。  「どうしたの?リーディ?」 ステラが薪を抱えて不思議そうな顔で問う。 「・・・あ、悪い。」 彼はそう答えると暖炉に薪をくべて種火を点けた。  居間の戸棚にはグロッサリーがまだいくつか残っていて、キャロルが身体の温まるスープを作ってくれた。  彼女もムヘーレス大陸の北の修道院で暮らしていたので寒さに負けない知恵もよく心得ていた。 それを飲んでから、部屋も温まってきたので ありとあらゆる戸棚やテーブルの引き出しなどを探したが・・・ 何も目ぼしいものはなかった。 「・・・ここに引っ越してからももともと私たち、持ち物少なかったしね。」 ステラが苦笑しながらため息をついた。 「にしてもアンタ年頃の娘なのにドレス一着も持ってないなんて」 メイが額に手を当てる。 「せっかくの素材がもったいないわよねーぇ。」  「姉さんは商売柄といえども、服とか買い過ぎなんだよ」 コウは笑顔でぐさりというのでリーディとキャロルはクスリと笑う。 「必要なかったし、ただ母に身を守れるくらい強くなれ、自分で生活できるように 何でもできるようになれって言われていたから・・・。でも勉強はそこまで好きじゃなかったから良く母に叱られていたわ。」  カラカラと笑うステラは、更に言い続けた。 「でもね、見かねた母さんがメイみたいに少しは身を構いなさいって言われたことあるよ。」 「それであの立派な手鏡を貰ったってわけ。」 「そういうことみたい。」  探し物をしていたらいつの間にか夜になっていたので台所の土間にバルッシュを入れて、簡単に夕食を済ませて今晩は休むことにした。  ステラのベッドにメイとキャロルが入り、居間の大きな長椅子一つをステラの部屋に運んで彼女がそこに寝る。オーキッドの寝室はコウが使い、リーディは居間にあるもう一つの長椅子で眠るということで落ち着いた。
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