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 扉を開けると、静かに雪は降り続けている。彼は灯りの灯る方へ歩き出した。  振り返ると、付いた足跡はすぐに降る雪に埋もれてしまう。 そこにはステラが屈みこんでじっとしていた。見るとガウンとショール以外、防寒具を何も羽織っていない。 ―バカかアイツ・・・。  たまに彼女は想いとか情熱とか、そういうモノが強いと己の身のことをそっちのけにするところがある。おそらく物思いに耽っているのかもしれない。 さくりと雪を踏みしめる音で彼女も気が付いた。そこまで気もそぞろではなかったようでリーディはホッとした。 「リーディ・・・。」 「・・・とにかくこれを。」 持っていたブランケットを肩に掛ける。 「ごめん・・・」 少しだけ沈鬱な顔をしていたので彼もそれ以上は何も言わなかった。見ると小さな墓標があり、美しい蘭の花が健気に咲いていた。周辺から馨しい果実の香りがする。 「母さんのお墓。寒いからお酒を持って行ってあげたのよ」 「そうか・・・」 静かな夜の静寂が手伝って 二人は黙り込んだ。 数分ののちそれを破ったのは、リーディだ。 「オーキッド王女はどんな人だった?」 「・・・なんかあんたの口からそう訊かれると変な感じ。」 「なぜ?」 「あまり自分の事を話さない代わりに、人のことも訊かないってそんな感じがしていたから。」 確かに自分はそうだった。 ラナンキュラスの花畑で亡き妹の話をした時も似たようなことを言われたなと、彼は再度確信する。 「まぁ、いいわ・・・母さん?厳しく温かな人だった。・・・でも今咄嗟に先に来た言葉が厳しいと出ちゃったように基本厳しいひとだった。」 「・・・ふーん」 「前ちらっと言ったけど槍を教えてくれたのも母だし、学校に通わなくなってから 勉強を教えてくれたのも母だった。さっきも言ったように 私そこまで勉強は得意じゃなかったから何故、似なかったのだろうなって。」 ―そうだ・・・ステラの母親は教師だと聞いた・・・。 リーディははっとした。  数年前に彼女の行方も探していた時、唯一の情報がセレスという名でスザナの街で教師をしていたと言うことだった。ゴードンからも、オーキッド王女は非常に賢い姫でそれで彼が他国から教育係として派遣されたと。  あのとき、ステラと初めて出会った時、おそらくオーキッド王女はその時はスザナの街で教師をしていたのだろう。  その後彼女が撃たれた後、それが原因だったのか・・・この山奥に逃げる様に身を寄せたというわけだ。 そこでリーディはふとした疑問が浮上したのだ。 「なぁ、この山奥に引っ込んだ時どうやって生計立てていたんだ?」 「・・・ほぼ自給自足だったわ。必要な生活必需品はたまに母が山を下りて街へ買い出しに行ってたりしたけど・・・蓄えは多少あったみたいだし。」 ―街の教師ならそれなりの給金はもらっていたはずだしな。ここでの自給自足なら、まず金を消費することもないだろう。 リーディはレザーマントのフードを被りながらそう思った。 「生活必需品って・・・?」 生まれ育った環境が王族暮らしだったので、彼は彼女ほど生活の知恵などは疎い。 まだ仮屋での暮らしがあったから、今でこそ人並みの庶民の生活は平気であろうが。 それで何気なく彼女に訊いたのだ。話の流れで。 「洋服とか、仕立てられた既製のものはあまり買わなかったな。高いし。だから布地を 買ってきて家で作ったり。他にも生活の細々した道具とか。はさみやナイフとかさ、香辛料とか・・・そうそう!母さん本が好きで、街へ行くたびに絶対何かの書物を古本で買ってきて・・・」 そこまで言いかけた瞬間ステラは、何か思い出したように急に黙った。そしてそうするや否や突然小屋の裏手を目指して駆け出した。 「おい!!ちょっとお前!」 本を買ってきてと言いかけ、彼女は何かを思い出したようだ。リーディもステラを追いかけながら気が付いた。 ―この小屋の居間にもステラやオーキッドの寝室にも、数えるほどしかなかったと。
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