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 ちょうど小屋の裏に回ったステラは立ち止まって上を見上げていた。  そこは木々に少し覆われていて、わかりにくかったが壁面に梯子が立てかけてあり、目線の先には屋根裏に入れそうな扉があったのだ。  追いかけてきたリーディはそれを見て、初めてこの小屋に入った時の違和感の正体が何なのかようやく解った。 ―外観に比べて小屋の中の天井が高くはなかったのは・・・ここに2階への入り口があったからか。  そう、たいていは外観からは天井が吹き抜けてある小屋の造りだったが、実際は違ったことに彼は違和感を感じたのだ。吹き抜けがなければ2階がある造りだったのに、いざ中に入ると階段はなくあくまで平屋造り。 てっきりそれだけの部屋数だと思っていたのだが、やはり…。 「そう・・母さんは時たまここに籠って何か調べものしていたの・・・。本を買ってくる度にね。私は基本入るなって言われていたから。だから家に戻ってきた時この部屋のことまで思いだせなかったんだ。」 「じゃぁ、様々な書籍などもここに…。」 「たぶん。」  そう答えると彼女は立てかけてある梯子を登ろうとした。しかしランプを持ちながらだと足場が雪で滑りそうで非常に危険だ。 なのでランプを置いて登った方がよさそうである。  けれども彼女は無謀にもそれを持って梯子を登ろうとする。 「おい、そのまま登ったら危ないんじゃね?」 「え?」 登りかけてステラもようやくランプ持ちながらは厳しいと感じだようだ。 「火付け役の俺が先に行った方がいいんじゃないか?まぁ俺としたら眺めはいいけど。」 彼女は夜着がワンピースだったことをすっかり忘れていた。そして黙って降りて、バツが悪そうに一言こう言った。 「・・・だったら早く先に登ってよ・・・。」  リーディが先に登り扉の閂(かんぬき)を引くと静かにそれが開いた。  もちろん中は真っ暗である。どうにか身体を中に滑り込ませて指先から焔を灯してあたりを見回すとかなり広い。彼のすぐ横に小さな台があってその上に燈心草の燭台があった。それに試しに火を点けるとうっすら明るくなる。暖炉の熱い煙がうまくこの屋根裏の床下にも回る様に造られているのか、中は大層温かだ。続いてステラが梯子を上ってきた。彼は彼女の腕を引っ張り上げた。 「すげえな・・・。」 そこは書斎兼書庫だった。 さまざまな書物がひしめき合い、チェストと椅子があり、羽ペンインクなどの 筆記用具も無造作に置かれていた。 椅子の横に何かがある。 「これは・・・」 ステラは手に取ったそれは、小さなハープだった。 「そう、母さんたまに弾いていたの。」 ポロンポロンと掻き鳴らし、ステラはため息をついた。 「私ったらうっかりしてたわ。」 「・・・ともかく、ここに何か手がかりがありそうだな。」 「リーディ、いろいろ探してみよう?」 リーディは頷いて、片っ端から本を物色した。 ―蔵書は城の研究所にあるものもあったりと さして珍しいものは無さそうだが・・・。にしても教師をしていただけあって 数学、文学、幾何学・・・魔術と・・・姫はかなり博識な方だったんだな。 パラパラページをめくりながらリーディは思った。そしてふと、視線をずらすとチェストの上の筆記用具と共においてある厚い革表紙の本が目に付いた。 ―これは・・・? 気になって開くと中に記されていたのはどうやらオーキッドの肉筆らしい・・・。 事細かに日付が書かれている。 ―もしや、オーキッド姫の日記・・・!! リーディはぱたんと表紙を閉じるとステラを呼んだ。 「何?」 「これ、お前が持っていた方がいいから渡しておくわ。」 「え?だから何それ?」 「どうやらオーキッド姫の日記のようだ。他人である俺が読むべきではないから娘であるお前が持っておくべきだと思う。」 ステラは恐る恐るそれを受け取って胸に抱いた。 ・・・もしかしたら、私の知らない母さんの真意がわかるかもしれない・・・! それから再び二人は本をいろいろ探し始めた・・・。しかしながら、思いのほか物凄い量の本だ。ましてや夜中である。 気が付くとステラは本棚に持たれて眠っていた。リーディは仕方ないなとブランケットを広げて彼女の横に座って自分も潜り込む。すると彼女も気が付いて目を覚ました。 「ごめん・・・眠くて。」 「仕方ない、時間も時間だしな。何気にここ温かいし。」 「うん・・・。」 「明日みんな呼んで手分けしたほうがよさそうだな・・・下に戻るか?」 「・・・眠いからここでいい。」 彼も頷いて、それからそっとキスを交わす。 「なんかな・・・」 リーディは口づけ交わしたあと、複雑そうな顔をした。 「どうしたの?」 「いや、なんかここ、ステラの母上が使っていた書斎だろ?だからなんかやりにくいよなって。」 ああーだからか。とステラは納得して くすくす笑った。 「母さん仁王立ちして見ていたりして。 なーんてそこまで無粋じゃないと思うよ。」 「そうか?」 そう言いつつ二人はなんとなく肩を寄せ合って眠りについたのであった。
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