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7
朝になり雪は止んでいた。
メイは珍しく早起きして外に出た。まっさらな雪の上に降り立つと気持ちが良いので、形の練習を始めた。
踊りとは違う筋肉を使う彼女の武術は、しなやかであり力強いモノ。
・・・清々しいほどの澄んだ空気だよ。
彼女は一通り動いて汗をかくと少し休憩をした。
―にしても・・・あの二人何処に行っちゃったんだろうね?まぁ二人っきりに
なりたいのは構わんが・・・こう姿も見えないと心配するじゃないのよ。
とその時、小屋の裏手からリーディが出てきた。
「あ!リーちゃん」
驚いたのはリーディの方だった。
すぐ目が覚めてしまった彼はステラにブランケットを掛け直して皆がまだ寝ている間に先に下に降りてきたと思ったら・・・そこに彼女が居たから。
「珍しいな…こんな時間に起きているなんて。」
「あたしだって早起きはたまにはしますよーだ!っていうか何処にいたのさ?」
リーディはこめかみをポリポリ掻くとしばらく考えて答えた。
「はばかり(トイレ)」
「ちがうでしょ!」
「あーバレた?まぁ、あとで説明するわ。」
「ちょっと!」
ゆっくりだけど大股で去っていた彼の背に
メイの呼び止める声がかかるが彼は相手にせず‥‥。
リーディが玄関扉を開けるとコウが簡単な朝食を作っていた。
「おはよう。」
「皆、早いのな・・・。」
「朝日が眩しくて早く目覚めたんだよね。」
「あら、リーディ」
当然の如く、キャロルも水場のある土間から姿を現した。
「キャロル。」
「おはよう、バルッシュに飼葉をあげて。晴れているから外に連れ出そうかと。」
「そうだな」
「・・ステラは?」
* * *
ステラは夢を見ていた。
母が銀色の髪の魔性と微笑み合って、幸せそうにしている。
―もしかしてあの魔性は・・・私の父?
しかし・・・しばらくすると風景が一変して、リスナーにとどめを刺されて・・・いや、違う、
自分が、ステラ自身が母を守ろうと力を放出させた時に母までも・・・傷つけて殺してしまっているシーンだ・・・。
やだ・・・!
嫌だ・・・!!
―・・おい、ステラ!!
誰かが自分を必死に呼ぶ声。
ハッと目を覚ますと、そこは屋根裏の書斎で
リーディがかなり心配そうな顔で覗きこんでいた。
両肩を揺さぶられていたようだ。
いや、彼だけでなく・・・メイ、コウ、キャロルも傍にいる。
自分自身は酷い寝汗をかいていて、夜着が汗でびしょ濡れだ。
「あんた・・・大丈夫?うなされているから」
「あ・・・大丈夫。」
ステラは無理やり笑顔を作って立ち上がった。
「リーディ・・・」
「ああ、皆を連れてきた。」
「とりあえず、軽く朝食をとってからここも探そうか。」
コウはぐるりと部屋を見廻しながら言った。
「にしても、こんなところにねぇ・・・。」
* * *
その後皆で手分けしていろいろ蔵書を調べて
コウが目ぼしい資料を見つけた。
「エターナル・メタルの資料だ・・・!!ステラの母上はやっぱり色々調べていたんだね。道具のこととかも書いてあるかも。」
「やったね、コウ。」
「んー・・・でもねえ。」
コウはちょっと神妙そうな表情をしている。
「パラパラ見たけど、読んでもわからないことは結構ありそうなんだ、せめてリストンパーク王家の縁の人・・・が生きてればわかるかもだけど・・・」
今のところ思い当たるのはその当時オーキッド姫に仕えていた、ゴードン老師くらいしか思いつかない、しかし彼は生粋のリストンパーク王家の人間ではない、スフィーニ出身の者だ。
「・・・まぁ、一歩は前進したから、良しとしなくっちゃね。」
コウは再び微笑むと大切そうに本を袋に入れた。
「で、どうするよ?次。詐欺ペンダントは光ってくれないし・・・。」
メイが再びペンダントをぶんぶん振り回す。
「五大神のうち、あとまだどこに封印されているのかわからないのは、地の神キシャル―・火の神ウェスタか。」
「でもさ、ペンダントの力が引き出されたのはコウのだけでしょ?」
また、彼らは行き詰る。
するとステラがおずおずと言葉を発した。
「とりあえず・・・私情が入っていて申し訳ないのだけど、大陸の北東側にスザナと言う町があってね?ここに住む前に 私と母が住んでいたところなの。そこへなら多分私の移動呪文で一気に飛んで行けるから、行ってみない?情報が仕入れられるかもしれないし。」
「んなことできるの?」
メイが素っ頓狂な声を上げる。
「だったらこの山奥だって行けたんじゃ・・・?」
「移動呪文はイメージが大事だからな。あと位置感覚。」
リーディが天井の梁を見上げながら呟く。
ステラは頷いた。
「私ここに引っ越した後はあまり山を下りたことが無くて。街みたいな目立つ
ランドマークもないしね。」
とは言いつつも、ステラは自信が無かった。
ここからスザナは意外と遠い。
母はおそらく移動呪文も使っていたことだろう。
「とりあえず、俺もそこへは行ったことがあるから、イメージの形成は手伝えると思う。」
・・・そうだ、リーディは・・・。
ステラははっと、思い出した。
フィレーンも言っていた。何度も彼はスザナへ足を運んだことがあると。そして、4年前銃砲に撃たれた自分を助けたという確信もある今。私達はまだあの時の自分たちのことはお互い話していない。
なんとなくだけど、今話すタイミングじゃない気がしたのだ。
「じゃぁ。午後にでも参りましょうか?」
キャロルが澄んだ声で微笑んだ。
皆、頷いて合点した。
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