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プロローグ
人生は無意味だ。
それは何故か、と問われれば、思い出すのは小学6年生の夏の日。
体が悲鳴をあげるまで遊び倒す夏休み、屋外プールでの出来事だ。
その施設はプールと言うにはお粗末で、水溜りと言うには豪華絢爛といった佇まいだったのだが、地元の子供達が足繁く通う人気スポットであった。
しかし、初等教育を終えかけている“自称”大人の僕達がそこで満足できるはずもなく、知る人ぞ知る穴場である別の遊び場に通っていた。
屋外プールは近くを走る河川から水を引いている構造になっていて、その河川を更に数キロ上流に上っていくと、取水門のような場所があった。
そこは水位によって不規則に水流の勢いが変わるようになっていて、それは僕等からすれば絶好のウォーターアトラクションであった。
水門の上から勢いよく飛び込み、荒くれる水流にもみくちゃにされる。
僕達は、危険に飛び込むスリルを求めていた。
つまりどうしようもなく馬鹿だったのだ。
その日は前日に降った大雨の影響で、一際水流が激しかった。
僕はその茶色く淀んだ水流に嬉々として飛び込み、流され、沈んだ。
人生初の腓返りってヤツに最悪のタイミングで襲われた。
上下左右も分からぬ水中でもがき苦しみ、そのまま僕は、生まれて初めて意識を飛ばしてしまったのだった。
・・・念のため言っておくけれど、僕は死んでいない。
今思えばそれなりに危険な状況であったけれど、泳ぎの得意な友人に運良く助けられ僕はすぐに意識を取り戻したし、騒ぎになることを恐れた僕達は一切口外しないことを互いに誓い合ったので、大した騒ぎにもならなかった。
僕が被ったダメージといえば、一生残るだろうトラウマと水中恐怖症、命を救ってくれた友人にひと夏の間アイスを奢らされたことくらいだった。
そして僕、鍛冶屋 大樹は、その後生命の危機に晒されることも無く、すくすくと育っていくのだった。
友と笑いあうのだった。
気になるあの子から恋を知るのだった。
ロースもカルビも美味いのだった。
それでも、人生に意味なんて在りはしない。
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