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おろしたてのワンピースはエロい
僕がおはようと声をかけた時、南条君は教室の隅からじっと一人の女子を見ていた。
「どうしたの南条君。」
僕の声に挨拶を返すわけでもなく南条君は漏らすようにつぶやいた。
「エロい…。」
この人はまた何かやばい事をしているのだろうか、前回のあまりの衝撃的な暴挙を思い、僕は喉を鳴らした…。
「エロいって… あの子…確か福井さん?」
「わかるか?彼女、進級するにあたって新しい服を買ってもらったんだ。割と可愛らしいワンピースだな。きっとお母さんと一緒に出掛けてねだったものに違いない。」
確かに福井さんが身に着けているワンピースは真新しく見えたし親が着せたい服というより女の子が着たい服っぽく見えた。
可愛らしくはあっても一体どこがエロいって言うんだろう。
露出と言えば肘より先、膝より下だ。間違いなく健全だ。どこにもエロい要素はない。
「南条君、何処がエロいってのさ。あんなの普通じゃない?」
すると南条君はカッと目を見開き僕を睨みつけた。
「わかってねぇ奴だな!こんなエロいもん前にしてよく冷静でいられるよ!」
「えええ…?」
戸惑う僕の頭をがっと掴むと彼はぐいと僕の顔を福井さんに向けた。
「見ろ!あの子のお腹の部分だ。生地がぴったり張り付いてる。わかるか?今あの服のあの部分は肌着越しにあの子のお腹にぴったりくっついているんだ。」
「は、肌着越しに?!そ、それって… 下着に接触しているって事じゃないか!さらにいうなら間接的に地肌に直についている!」
僕は喉の奥が熱くなってきた。
「わかってきたようだな。お腹ってのはな、女にとってみられてとても恥ずかしい箇所なんだ。小さい子なんてふいに裸を見られたら胸ではなくおへそを隠すほどにな!」
ぶっ!
こ、この人はなんてエロいことを平然と口にできるんだ!やばい、やばすぎる!今のを聞かれたら職員会議にかけられても反論できないぞ。
「大人だってそうだ、ウエストだけはどうしても見せたくないらしい。それほどにエロい場所なんだ。」
「だ、だけど、ビキニとかはお腹出すよね…?」
僕の反論は頭への一撃に粉砕された。
「馬鹿だなお前は!あれはな、女自体がエロい気持ちだからだよ!じゃなかったら下着姿と変わらない姿で外を歩き回るかよ!ビキニと下着、何処が違うってんだ?同じだ!だがビキニという名目のもとで女達は裸をさらすことを正当化しているんだ!だから水着はエロいんだ!わかったか!」
そ、そうだったのか…。や、やばい…そんな事実を知ってしまったら…
僕は夏どうなってしまうんだ?プールに行けるのか?!
「そんな恥ずかしい恥ずかしいお腹を今、俺は容赦なく注視していたのさ。」
注視!注視と言ったかこの男!
「お母さんに買ってもらったばかりの、これからお気に入りになるはずの素敵な可愛らしいワンピース…。だがな!そのワンピースは彼女の知らないところで俺の視線にたっぷり蹂躙され、その視線を飽和する程染み込まされているのだ。そうとも知らずに彼女、楽しそうに笑っている…。」
「ま、待ってよ南条君!それは!それはあんまりだよ!」
僕は彼の視線を遮らずにいられなかった。
「せっかくお母さんに買ってもらったんだ、勘弁してあげてよ。そんなの可哀そうだよ!」
なのに南条君は僕の必死の訴えも鼻で笑った。
「可哀そう?だったらなんでこんな所にそんな服着て来たんだよ!教室に来れば男子の視線にさらされる。それはつまり!そう、お腹を見られるって事だ。彼女が知らなかったとは言わせないぞ?」
僕はうろたえて思わず後ずさったけれどここで引いたら彼女がかわいそうだ。
「だ、だけど… きっと彼女はあの服を着たかったんだ!可愛い服を着たいだけだったんだよ。」
「いいや違うな、彼女も少なからず期待していたはずだ。男子の視線が自分に注がれることにな。そのことに快感を覚えているんだ。…エロい…。」
僕は思わず福井さんを振り返った。
友達と会話する福井さんがそんな計算高い女には見えなかったけれど、福井さん、そうなのかい?
「それからな、北田、俺は今ただあの子のお腹を見ているだけだと思うか?」
なんだって?まだあるってのか?
「ま、まさか… まさか君はっ!そんな…!」
南条君の口角がゆっくりと上がり不敵な笑みに変わった。
「君って奴はっ!」
僕は掴みかかっていた。
「なんて破廉恥な奴なんだっ!」
「そこにあるんだぜ?見ないでどうする。」
やっぱりだ!この男は!世界一エロいこの男は見つめていたんだ!
「彼女のおへそはあのあたりだよな。」
容赦ない、この男のエロさは容赦がない!こともあろうにただお腹を見るだけではなく福井さんの…おへその辺りを見つめていたんだ…!
「男におへそを見つめられていると知ったら彼女はどんな顔するだろうな。」
だめだ、今すぐ福井さんにあの服を脱いでもらわないと!このままではエロいことをされ続けてしまう!
「おおっと、知らせても無駄だぜ?北田。俺の視線はすでに生地の内部に染み込んで絡みついている。今後何度洗濯したところでこの事実は消えねぇ。」
「そ、それって!」
南条君はさらににやける。
「あの服を着るたび、福井はいわば俺にお腹を、しかもおへその辺りを見つめられるづけるも同然だって事だ。」
「悪魔ぁっ!!」
僕は力なく膝をつくしかなかった。
僕の絶叫にクラス中が振り返った。その中におろしたての可愛らしいワンピースを身に着けた少女もいた。
僕が守れなかったことも知らずに…。
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