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第一話 願い出る
黄金時代。
かつての自分の写真を目にして、今の私はむせび泣いている。
若い時は際限なく食べても太ることなどなかった。
ショックなことに、昔は痩せていたのだと言ってもウソだと思われてしまう。
「若死にしておけばきれいなままでいられたのに・・・」
嘆く私に砂羽はため息をついた。
「また目覚ましく変わったよね、あんた」
上京してすぐの頃はスリムだったのだが、今の容姿で帰省しても恐らく私が誰だかわかってもらえないだろう。
「まあ、ニーズはあるんじゃない?ぽっちゃり女子の」
「ぽっちゃり女子ならチョコレート中毒でも許されるかな・・・」
砂羽は呆れた顔をして、でも口に物を入れたまましゃべるのはやめた方がいいけどねと言った。
「やっぱり本腰入れた方がいいよね」
「こはるの会社って健康診断ないの?」
「あるよ、近々。すっぽかそうと思ってるけど」
がしっと私の太ももを掴むと、砂羽はじゃあそれまでにこの象のようにたるんでいる足をなんとかしろと言った。
「自然とこうなったんだよね~」
「そんなわけないでしょ!私の目が届かないところでたくさん食べてるくせに」
たしかに大学時代は食への衝動を抑えられないときに砂羽が止めてくれたり、ガムをくれたりした。
「砂羽は私から生きがいをなくすの?」
「こはるは高校時代は学年で三本の指に入る可愛さだったじゃん」
あの頃の私は容易く男が手に入った。
「そうだね、こんな容姿には終止符を打たないと」
「口だけじゃ何の意味もないからね」
そう言うと砂羽は元凶になっているお菓子を集めて捨て始めたのでぎょっとした。
「ちょっと!自分の意思で選ばせてよ」
鋭い眼差しを向けて、痩せる覚悟があるのなら全て諦めろと砂羽は言う。
「私には責任があるの・・」
何が?と問う私に彼女は約束をしたのだと言った。
「凛太郎さんからこはるに現実を受け入れさせろって」
「やっぱりお兄ちゃん・・・」
逃げられないと思った。
砂羽は昔から兄に忠誠を誓っている。
こうして現実逃避とはおさらばの日々が始まったのだった。
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