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横に気配があった。郵便配達人の姿をした書き物の女神が、オレの隣で足を浮かせている。手にあるのは、同窓会や結婚披露宴の案内で使うことが多い、往復ハガキだ。オレは裏変えして本文を見た。
〈前略 もう懲りたみたいですわね。御貴殿を小説作品の世界に二度と送りませんわ。繰り返しで失礼します。御貴殿の作品の神様は、誰かご存知ですか。 かしこ〉
オレは往復はがきの返信部分を手で千切る。返信を手近なボールペンで書く。書き物の女神に両手で差し出す。
〈前略 自分自身です、理由は三人称視点だからです。神の視点で断言して書くからです! 草々〉
パソコンのモニターに視線を移せば、メールの受信ボックスが開かれていた。オレの作品が面白い、と読んでくれた人からの感想のメールが多数届いている。俺は無言でメールを開き、褒め言葉が並ぶ、本文を指し示す。感想に対して、オレがお礼の言葉を、一つ一つメールで送信していた。
書き物の女神さまは、返信と感想欄の交互に視線を、大きな丸い瞳を動かしていた。眉を寄せながら、こめかみに指を沿えながら、首を傾げている。
突如、手にスマホが現れた。指の動きに躊躇いがあり、唇をぱくぱくさせている。スマホの操作に困惑しているようだ。(完)
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