一夜の舞姫

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一夜の舞姫

静かな闇夜に輝く月明かりの美しくさに、吸い寄せられるように歩を進めた。 行き着いた先は、とある湖畔。 水面に映る自分の姿を眺め見る。 (……!?) 一瞬だけど、私が微笑みを浮かべた気がした。 「えっ?」 (今、笑った!?) 目を擦り、もう一度見た。 普通に私だ。 「なーんだ……気のせいか…」 ほっと胸を撫で下ろす。 ユラユラと静かに揺れる水面に、満月が反射して辺りが明るさを増す。 「…えっ?月が……青い……」 月が黄色から青に変わり始めた。 夜空の月は、まったく変わらないのに。 水面に映る月だけが青い。 「……何で?」 すると、水面に立つ1人の少女らしき姿。 その少女は、巫女姿に白髪の綺麗な長い髪を靡かせ舞踊っていた。 楽しそうに舞う少女の姿は、妖艶だった。 少女は、舞いながら私に近づいてくる。 逃げなければ……。 だが、脚が言うことを聞いてくれない……。 (こんな時に……) 怖さに震えていた。 「ふふふ……」とほくそ笑みを浮かべた少女に手を捕まれた。 (…!?) 終わった……。 と思った。 恐怖で固まったままの私。 少女は、顔を近づけボソボソっと耳打ちするように呟く。 「怖がらなくても大丈夫……」 その言葉に、ゾクッとした。 ユックリと身体を、少女の方へと向けると 赤い瞳をした少女が立っていた。 ニコッと微笑むと、少女は「行きましょ」と私の手を取り水面の上で躍り始めた。 不思議な事に、水面の上を歩けた。 次第に私は、恐怖が薄れていき、いつの間にか楽しさを感じていた。 「貴方は、誰?」っと少女に訪ねると。 「貴方は、私で、私は、貴方」と答えた。 私には、その言葉が何を意味するのか分からない。 続けて「私を知りたい?」と少女が訪ねてくる。 私は、思わず「うん」と顔を縦に振ってしまう。 すると少女は、いきなり私にキスをしてきた。 (何!?何が起こった?) 少女は、ふっと笑みを浮かべると「契約成立」と一言告げ私と重なり合う。 その瞬間ーーーー。 ゾクゾクっと悪寒にも似た感覚が身体中を駆け巡り、目の前が真っ白になった。 気づくと少女の姿は無く、辺りは朝を迎えていた。 いったい昨日は、何が起こったのだろう。 「私は、夢を……?」 昨日の事を思い出そうした時 「……っ」 誰かの声が聞こえた気がした。 「え?」 ついには、幻聴まで聞こえてしまったのか…そう思った。 「夢ではありません……」 今度は、ハッキリと聞こえた。 だけど、辺りを見回しても誰も居ない。 声は、間違いなく昨日の少女。 少女は、クスクスっと微笑し「貴方の中」と言った。 「私の……中……?」 「そう……貴方の中」 (まさか……あの時) 私は、昨日の事を思い出していると、 少女は、「顔を見て」と言ってきた。 手鏡で自分を見てみる事にした。 「なっ……何これ……」 鏡に映る私を見て驚く。 左の瞳は「赤」。 右の瞳は「青」だった。 そう、私達は一心同体になったのだ。 戸惑う私を他所に、少女は淡々とした口調で言う。 「私の名は御影!これから、宜しくね!」 ええええーーー!!!! この日を境に、私と御影。 不思議な共同生活が始まったのである。 溜め息をついた。 水を一救いし、月へと撒くように散らす。 えっ……。 湖の中央。 水面の上で、1人の舞踊る少女。 巫女姿に、白髪ロング。 明らかに、この世の者ではない。 彼女は、私を誘うように不適にも似た笑みを浮かべる。 凛とした姿で悠々と舞踊る姿に。 私は、いつの間にか。 魅力されていたーーーー。 彼女は、近づいてくると、私の手を取り水面に導く。 月明かりの下、私と彼女で躍り続けた。 彼女の瞳は、キラキラと輝き。 私は、今まで感じた事ない気持ちになる。 「ねぇ?あなたの事を教えて」 「……」 (何言ってるんだろ私…教えてくれる訳もないのに) 「…教えてほしい?」 「えっ……うんっ……」 「ふふふ……私の名は、御影"みかげ"、古の巫女」 「何だか不思議…」 「何故?」 「貴方を見てると、安心するの」 彼女は、クリっとした綺麗な瞳で見つめてくる。 彼女は、私へと聞いてきた。 「そなたの名を教えてはくれぬか?」 私は、名前を教えた。 「杞夜"きよ"…素敵な名じゃ」 「ありがとう、御影」 「杞夜?」 「何?御影」 御影は、手を私の頬に優しく当てキスをした。 (!?) 私は、突然のキスに驚いた。 御影は、唖然した立ち尽くす私に言った。 「そなたに、生きてほしい」と。 そう告げると、御影の辺りを淡い光が包み込む。 私は、悟った。 別れの時だと。 嫌だ……。 行かないで……。 御影……。 私、もっと………。 あなたを知りたい………!!! 次第に宙に浮かび薄れ行く御影。 嫌だ!!! お願いだから、行かないで!!! すがるように必死に手を伸ばす。 「御影!!!」 「杞夜…」 「行かないで…」 「杞夜…そなたに会えて良かった」 「私も、貴方に会えて良かった!!」 御影は、私へと優しく微笑む。 私は、叶いもしない願いをした。 「また、会えるかな……?」 すると、御影は「ふふふ…」と小さく笑うと もう一度キスを交わし 「いつか……きっと………」 そう言い残し、消えて行った。 御影の去った後を追うように、蝶の群れが月明かりの中へと昇る。 恍惚としてしまうほど幻想的な光景だった。 気づくと、私は湖畔に立ち尽くしていた。 いったい、あれは何だったのだろう…。 私は、夢を見てたのだろうか……。 (ん?) 手には、鈴の付いた朱紐を握っていた。 「これって……」 (あっ……御影の) それは、御影の首飾りだった。 (やっぱり……夢じゃなかったんだ……) ギュッと握り締め、月明かりを仰ぎ見た。 一夜限りの儚い夢物語。 だけど、いつかまた会えると信じて生きていく。 次、会えた時には伝えよう。 「御影、あなたを好きだ」と。
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