四つのカプセル

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四つのカプセル

二人は部屋に帰ると早速紙袋の中身を机の上に並べた。そして二人は先程怪しげな露店で買った四つのカプセルをまじまじと眺めた。四つカプセルは白赤黄そして黒の四色で、鶏の卵ほどの大きさと形をしていた。光に透かして見ても中は見えないし、振ってみても音は無く、重さも軽くとても中に何かが入っている感じはしなかった。 「あのオジさんが言っていたのは本当かしら?」 「まさか。ただの売り文句だよ。ボク達はまんまとあのオジさんの詐欺まがいの商売に協力してあげたのさ。」その露店の店主曰く白には過去に必要だった物が入っていて、赤には現在、そして黄色には未来に必要な物が入っているそうだ。そして黒は決して開けてはならないと。『黒色のカプセルの中には不幸が入っているから絶対に開けるな。』と二人は強く念を押されていたのだが、もちろん二人は店主の言う事など全く信じていなかったし、そもそも面白半分で購入したので、はなから開けるつもりをしていた。 二人は付き合い始めてからすでに三年が経過していて、結婚も考えていた。最近同棲を開始して今が二人の幸せの絶頂なのだ。そしてその絶頂は日々更新され続けているのだった。 「ねぇ、早く開けようよ。」 「まぁ、待てって。ちゃんと順番通りに開けないと。」 「ふふっ、あのオジさんが言ってた事本当に信じてるの?」 「まさか。でもこういうのはちゃんとしたいんだよ。」 「ふふっ、真面目ね。でもアナタそんな所も好きよ。」二人はまず白いカプセルを開けた。カプセルは上下を持って軽く捻ると簡単に二つに分かれた。そしてカプセルの中にはパッケージのままの“胃薬”が五錠入っていた。 「胃薬…?」 「何でこんな物が過去に必要だったの?」 「さあ…」 「あっ!もしかしてあの時かしら…。ほら、私達が初めて出会った時、私、駅でお腹が痛くてうずくまっていたじゃない。」 「あぁ…、あの時か。ボクが声をかけたけど、キミは『胃薬が欲しいの。無いなら大丈夫だから…』と言って断った。」 「そう、あの後私は急性胃腸炎で緊急搬送されたわ。もしあの時アナタが胃薬を持っていたら、きっとアナタが救急車を読んでくれていたはずよ。そうなっていたなら私達はきっともっと早く一緒になっていたと思うの。」 「考え過ぎじゃないか?」 「そしてその一年後にばったり合コンで出会って付き合う事になったけど、もし一年前の駅の件で付き合っていたならば今頃とっくに結婚していたはずよ。」 「まぁ、そうかもしれないな…。」彼女の方は何か確信めいたものを感じていたが、男は何か府に落ちていなかった。そして二人は赤のカプセルに手を伸ばした。 「じゃあ、次は赤を開けましょう。」 「ああ、いいよ。」カプセルは先ほどと同じく簡単に開いた。そして中には二本の指輪が入っていた。 「これって…、婚約指輪…?」彼女は大粒の涙を流しながら男に抱きついた。 「嬉しいわ!こんなサプライズを用意してくれているなんて…」 「い、いやー、喜んでくれて良かったよ…。」男はもちろんこんなサプライズの用意などしていなかった。だが感激し、喜びを爆発させている彼女に『知らない。』とは言い出せず、男は話を合わせてしまったのだ。 そして指輪にしっかりと二人の名前が刻まれていた事が男に得体の知れない恐怖を覚させた。だが、彼女から自らへの思いや感謝の言葉をかけられるうちにだんだんとその恐怖は和らいでゆき、男は一時間もすると『ゆくゆくは結婚するつもりだったからな…。』と現在自らが人生で最大級の幸福な瞬間を迎えているという実感が湧いてきて、そんな事はどうでも良いと思えてきたのだった。 「ねぇ、次のカプセルも開けていいでしょ?」 「ああ、いいよ。」彼女は黄色のカプセルを開けた。中には三発の十ミリ口径の銃弾が入っていた。 「え、何これは…」男はとっさに言った。 「おっ、おまじないだよ、これは。アメルカでは互いに婚約指輪と一緒にこうやって銃弾も交換するんだよ…。そっ、そうやって災いから二人は護られるんだってさ。」 「ふーん、そうなんだ。何で三つなの?どっちかが二つ持つの?」 「いっ、いやー、昔から三発みたいだよ。いっ、一発は家に置いておくんだってさ…。」 「ふーん。」銃弾を机の上に置くと彼女は黒色のカプセルを手に取った。 「じゃあ、黒色も開けようよ。」 「えっ、何でだよ、黒には不幸が入ってるんだろ。あのオジさんも『絶対に開けてはダメだ!』って言ってたじゃないか。それにオレなんだか怖いよ…。」 「何でよ、アナタのサプライズでしょ?」 「えっ、そうだだけど…」彼女は黒のカプセルを開けた。だが中は空っぽだった。 「何も入ってないじゃない。もー、何も無いなら無いって言ってよ!」 「ハハハッ、ゴメンゴメン。少し怖がらせ過ぎたかな…。」二人には黒色のカプセルに入っていたものは見えていなかった。何故なら不幸は実際に起こった時に初めてその姿を現すからだ…。
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