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落ちたのは、日向の線香花火だった。
「あー、負けちゃった」
残念、と言いながら日向はバケツに入った水の中に線香花火を沈めた。私は負けなかったことに少しほっとしながら、日向の言葉を待った。
「じゃあ秘密を言うよ。私は、今好きな人がいます!」
日向の突然の告白に、どきり、と嫌に大きく胸が高鳴るのを感じた。
「その人は誰か、は聞いてもいい?」
聞きたいけど聞きたくない。そう思っていたのに、口から出たのはそんな言葉で。気づくと私はバケツの中の水に沈んだ線香花火をぼうっと見つめていた。
「ねえ月。まだ花火、ある?」
「ある、けど」
「じゃあゲームの続きをしましょう!」
やけにハイテンションな日向の言葉を聞きながら、私は花火セットの袋の中から二本の線香花火を取り出して、日向に一本手渡した。
日向は照れたり恥ずかしかったりすると、テンションを上げて誤魔化す癖がある。今テンションが高いのはきっと、秘密を告白したことに対する恥ずかしさを打ち消すため。それが考えなくともすぐに分かってしまって、切なかった。もう既に私の気持ちは完全に失恋モードだった。理由はないけど何となく、日向の好きな人は私じゃないような、そんな気がした。いや、私だったら嬉しいと思ってるけど、期待した後に落とされた時のことを考えると、強気にはなれなかった。
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