フードファイト

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   おそらく今、ほぼ全てのJ国民。いや、世界中の殆どの人間が、この中継を目にしているのだろう。  あちらの時刻は朝十時。こちらは日付が変わって間もなくのところだ。  外からの音がまるで聞こえて来ないのは夜が更けているからではなく、この歴史的瞬間に、誰もが注目しているからに違いなかった。  先程庭先へ出てみたが、普段は遅くとも二十一時には床に入る隣の老夫婦の家からも明かりが漏れていた。近所の家々も同様で、明かりを灯しているのが一階の部屋に偏っているのは、我が家と同じく一家一丸となって自国のファイターを応援しようと考えている家が多いからなのだろう。  どこかで目にした事がある光景だと思えば、大晦日のあの雰囲気に似ているような気がする。中継が繋がる前のニュースでは、都心の街中にある大型スクリーンの前や居酒屋が多く人で賑わっている事が報道されていた。その熱気はオリンピックやワールドカップの時にも近いように感じた。  あちらは予報通りの快晴に恵まれたようで、テレビには日の光に照らされた会場が映し出されている。  観覧席は当然の如く満員。競技場を縁取るように楕円形のスタジアムの中には黒山の人だかりができている。  応募期間終了後には一席に一万ドルもの価値がついたそうだ。各国の命運が掛かったこの大会の実情を思えば驚きこそすれど疑問には感じない。
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