レイラ職人学校に入学する

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レイラ職人学校に入学する

 リビアでは貧しくて学校に行けなかったムクターさん。エジプトに来て生活に少し余裕が出てくると、レイラを学校に行かせたいと思い始めた。 「レイラちゃんは繊細で絵が得意だから、職人学校に通わせて絵の才能を磨かせてはどうだろう。なんなら市長にかけあってもいいよ」  とラモセさんから親切な提案があったのだ。 「レイラが絵を習いたいというのなら」  マブルーカさんも大賛成してくれた。  その夜、ムクターさんは晩御飯を食べ終わると、眠たそうにしている娘を呼んだ。 「レイラ、学校に通いたくないかい?」 「学校?」  一瞬で目が覚めたレイラは、目をまん丸くしてムクターさんを見た。 「ラモセさんが『おまえは絵が上手いから学校で才能を伸ばしたほうがいい』って言ってくれたんだ」  ムクターさんがそう言うと、 「あたしたちの仕事は大丈夫だから、レイラが学校に行きたいなら行っていいのよ」  マブルーカさんは優しく微笑んだ。 「学校で絵が学べるの?」 「バステト神殿付属の職人学校だ。レリーフから石像の作り方まで教えてもらえるよ」 「わぁ、楽しそうね!」 「友達もたくさん出来るよ」 「ほんと!」  レイラはもう行く気満々だ。 「でも」  マブルーカさんが少し含みをもたせた。 「でも、なに? 母さん」 「でもね、絵ばかりを学ぶところじゃないのよ。読み書き算術、文学や歴史とかも勉強しないといけないのよ」 「あたしだめだ」  レイラは肩をガックリ落とした。 「どうしてだめなんだい?」  ムクターさんが優しく訊く。 「だってあたし文章を読んだことも書いたこともないのよ。きっと教科書開いても何がなんだかわかんないわ」  絵が描けると聞いて大喜びしたレイラだったが、読み書きと聞いて、あっという間にテンションが下がった。 「父さんはあまり読み書きが出来なくて、今とても大変な思いをしているんだ。なぜならラモセさんとしている仕事は、ただ畑を黙々と耕し、育てるだけの仕事じゃなく、収穫した作物を市場で売ったり、外国に輸出したりする仕事もしているんだ。だから取り引きで手紙を書いたり、逆に受けたりする時にすごく困っている」  そう言ってパピルスに書かれた手紙の一部を広げて見せた。  レイラはテーブルの上に広げられたパピルスの手紙をじっと見入ると、 「わぁ綺麗! 手紙なのに美しい絵画みたい」  そう言って目を輝かせる。 「あたし学校に行きたい!」 「よし!」  ムクターさんは娘が学校に行けることがよほど嬉しいのか、まるで自分のことのように大喜びだ。  こうして始まったレイラの職人学校通い。  周囲の好奇な目に晒されながらも、レイラは学校で優秀な図工になるため、エジプトの伝統的な石像の技法やレリーフを学び、読み書きをはじめ、文学や数学、歴史、宗教、天文学に至る幅広い教養を身につけていくことになった。
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