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受験勉強。それを口実に、最近の私は夜更かしだ。
机に向かってさえいれば、パパもママも何も言わない。それどころか「あんまり頑張りすぎないように」なんて、笑ってしまう。
音楽を聴いたり、マンガを読んだり、スマホをいじったり、絵里香とメッセージを送り合ったり。近頃は深夜のラジオにはまっている。
深夜というのがいい。どこか秘密めいていて、大人の世界を垣間見るような気分。
誰かの葉書やメールが読まれると、顔も知らない誰かの人生を知ることができる。どんなことも、みんなが寝静まっている夜だからこそ、許される気がした。
女性DJの低くて柔らかい声が耳に心地よい。
『――えー、本日は「嘘」をテーマにお送りしてきました。それでは最後にメールをご紹介。ラジオネーム「満月」さんから。ああ、今日は満月ですもんね』
聞き流していた声に注意を向ける。
満月。
『幼稚園のお泊まり保育のときでした。夜、私は目を覚ましました。というより、みんなが寝静まるのを待っていたんです。こっそり外へ出ました。その日は満月で、夜なのにとても明るくて変な感じがしました。すると、誰かが外へ出てきました。違う組の子だったので(私がさくら組なら、その子はチューリップ組というように)、見たことはあっても話したことはありませんでした。その子は私を見て、驚いたようでした』
『その子の手を引いて、花壇へ向かいました。卒園したあと、私は小学校に上がる前に引っ越すことが決まっていました。だから、私がそこにいたことを示す何かを残したかったのです。それで、花の種を持って来ていました。何の花だったかは覚えていません。家にあったものでした。シャベルを取りに行って「一緒にやる?」と聞くと、その子は肯きました』
『シャベルで土を掘り返す、ざく、ざくという音を今も覚えています。種を蒔いて、また土をかけました。満月に見守られながらのこの作業はどこか儀式めいていて、とても神秘的でした。こんな夜を一緒に過ごしたこの子となら、ずっと友達でいられる。そう思った私は、その子に言ったんです。「満月の夜に、また会おうね」と』
『そのとき、私たちに気付いた先生が外に出てきました。私たちの持っているシャベルに気付いて、何をやったのか問い詰められました。私は、二人で一緒に種を蒔いたのだと言いました。でも、その子は「私は知らない」と言ったのです。誰かが外に出ていることに気が付いて出てきただけだと。私が覚えた友情は、一瞬で終わってしまいました』
『組が違うので、それから卒園まで話すこともなかったし、きっとこれからも会うことはないでしょう。あの子も悪気があったわけじゃないと分かっています。先生に叱られて怖くなったのかもしれないし、寝ぼけていたのかもしれない。けれど、月明かりの下ではっきりと嘘をついたあの子のことを、私はずっと忘れられそうにありません。私は、あの夜に蒔いた種が、花を咲かせたのかどうかさえ、知ることができなかった。満月を見るたびに、いつも「どうして」と思ってしまいます』
『へぇー、なんかドラマチックな話ですねぇ――』
女性DJは、相変わらず心地よい声で話し続けていたが、私の記憶のずっと奥のほうで何かがざわりと波立って、その声はすぅっと遠ざかっていった。
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