満月の夜の、約束と嘘

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満月の夜の、約束と嘘

 ――満月の夜に、また会おう。  私たちは約束した。  けれど、あれから何度満月の夜を迎えても、その約束は果たされなかった。  あの子はいったい誰だったんだろう。  私たちは、なぜ約束を交わしたんだろう。  どうしても思い出せない。 ****  十一月の受験生。周りは腫れ物に触るように私たちを扱う。こっちからしてみたら、そんな大げさなことじゃないのに。  必死に勉強している子もいるけれど、私が目指すのは、自分のレベルに合った高校。希望は高くなく、低くなく、ほどほどに、それが私の人生の哲学。なんて、十五歳にしては達観したことを思う。  ホームルームが終わって席を立つと、教室の外から声を掛けられた。 「奈々。一緒に帰ろう」 「オッケー」  声を掛けてきたのは、隣のクラスの絵里香だ。真っ白なショート丈のコートに赤いチェックのマフラー。長い髪はポニーテールにしている。  一年のときは同じクラスだったが、今は違うクラス。だけど、この学年では一番仲がいい。  コートを羽織る。  二つ上のお兄ちゃんからもらったお下がりのダッフルコートは、ぶかぶかで重い。でも、その重さも嫌いじゃない。 「勉強してる?」 「ぼちぼち。絵里香は?」 「全然。今から勉強しても、伸びしろなんてたかが知れてるもん。だったら遊んでたほうが得だし」  嘘つけ。絵里香は口ではそう言いながら、影でしっかり勉強するタイプ。ずるいなぁと思う。素直に勉強してるって言えばいいのに。  でも、絵里香はおしゃれで可愛いし、話も面白い。一緒にいて楽しい。  誰にだって、嫌いなところと好きなところがあって、好きの割合が多ければ友達になる。それだけのことだ。 「ねぇ、それよりさ。受験終わったら、奈々の家に遊びに行っていい?」 「べつに今から来てもいいよ」 「いいの。受験が終わってからで」 「ふぅん。絵里香の志望校ってさ、うちのお兄ちゃんの高校だよね」 「あー、奈々、見て見て。昼のお月様」  慌てたように、絵里香が空を指差す。薄青い空に、白く透けるような月が浮かんでいた。 「まん丸だね。満月かな」    ――満月の夜に、また会おう。  あの約束は、いったい誰としたものなんだろう。  なぜ、私はその約束を果たせなかったんだろう。 「奈々のお兄さんってさ、カッコいいよね」  絵里香の頬が少し赤いのは、寒さのせいだろうか。
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