永遠の愛

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永遠の愛

「なんと、猿の肝料理だと。  実に斬新だね、果たして味はどうかな。」  オーナーは、興味深そうに出された料理を見つめる。  黒影の特殊武装ヘリのおかげで、何とかギリギリ約束の時間に間に合った。  シェフは、伝統に従って、常温にしてから 塩・胡椒をして薄く小麦粉をまぶし、フライパンで極弱火で焼いた。  焼きあげてから、 ごえんの塩を ぱらっとちらし、花梨を煮詰めて作ったジュレを ソースとして添えた。  己のフレンチ料理への情熱、レストランへの愛情を込め、オーナーへの メッセージとして、ハート型に料理したのであった。  皿に書いた手紙、ラブ・レターである。  愛仙の代理である茉莉とシェフは固唾を飲んで見守るしかない。  オーナーはナイフとフォークで一口大に切り、静かに口へ運んだ。  表面はカリッとして 中はまったり、とろとろ。  甘酸っぱくて ほんの少し個性的な味のある花梨のジュレは大して物珍しくないが、肝そのものの風味が実に素晴らしい。  これぞ、悠久の大自然の恵み。  神が与えてくれた奇跡。  豊潤にして、何という力強さ。  五感総てを満足させてくれる。  地上最強と言っても良いであろう。  それだけではない。  オーナーは大台ケ原の山の大自然の中にいる錯覚に陥っていた。  そして、静かに涙を流すのであった。  純粋な少年時代、夢中になってトンボを追いかけ、カブトムシに興奮していたころの思い出が蘇ったのである。  突然のオーナーの流れ落ちる涙にとまどっているシェフに、オーナーは 毅然とした態度で言い放った。 「実に、けしからん。  こんな素晴らしい肝料理を食べてしまったら、今後、他の肝料理が 食べられなくなる。  今まで食べたものは、何だったと思ってしまう。  シェフ、この責任は重大だよ。  新しいビルのテナントで、これを超える料理を作ってもらいたい。  もちろん、人々の郷愁にせまる料理を作ることも認めようじゃないか。」 「やったあ~。」  茉莉とシェフは手を握り飛び上がって、喜んだ。  オーナーへのメッセージは、確かに伝わったのである。 「オーナー、有り難うございます。肝に銘じて、全身全霊で頑張ります。」  シェフは、オーナーの手を熱く握り、お礼と共に固く誓った。 「やっぱり、私の眼に狂いはなかったわ。  オーナー、良い人ね。」 「いやあ~、それほどでも。」  茉莉は、オーナーに抱きついて、お礼を言うものだから、オーナーも 照れている。  レストラン内が明るくなり、みんな幸せな気分になった。  美味しい料理は、人々のお腹だけでなく、心も満たし、生きる元気を与え、幸せにしてくれる。 「愛仙君に何とお礼を言ってよいやら。  帰ったら、レストランに愛する奥さんを連れて来るように、伝えて欲しい。  フルコースを御馳走しよう。  あの、宅急便の人も、連れてきてもらいたい。」  シェフの感謝の言葉に、茉莉は思わずガッツポーズをするのであった。  ちょうどその頃、愛仙と黒影は、それぞれ別の場所で大きなクシャミをしていた。  こうして、フレンチ・レストラン『AMOUR ETERNEL』、アムール・ エテルネル (永遠の愛を意味する)は、存続可能となったのである。
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