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そして歯抜けの男は、踵を返して入ってきた扉をまたくぐり、礼拝堂の真ん中を早足で突っ切った。
ベンチの端には赤布の若者がまだ居て、両手を前に組み、それを額に押し当ててぼそぼそと祈りを捧げていた。
お前さんにもひとかけらの幸せが訪れるといい、せめてこの聖なる夜だけでも。
扉に手を掛けながら歯抜けの男は心の中でそう呟いて、さっきよりも凍てついた空気の中へ、迷うことなく溶けていったーー
「彼に主のご慈悲と導きがあらんことを」
司祭様は男が出ていった後を長いこと見つめて、やがてそう言って胸の前で十字を切った。
そして、隅の赤布の若者を振り返って、
「あなたの祈りのおかげで彼は立ち直れました、感謝します」
空になったカップをそっと持ち上げながら言った。
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