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その音のした方を見ると、新聞紙が──今度はガサガサと大袈裟な音を立てて──見開きいっぱいに広げられていた。
上辺からひとつの目が覗いていて、私がぎょっとするとサッと新聞紙の陰に引っ込んだ。
と思ったら、折り目の真ん中からブスリと人差し指が貫いて、そこからひょっこりさっきの目がちらついた。
私は気味が悪くなって、変質者! と叫んでやりたかったのに出来なかった。パクパクと口が動くだけだった。
金縛りにでも遭ってしまったのだろうか、家に帰れないかもしれない、とさえ思ったのに、私の身体は簡単に回れ右出来た。
よかった逃げられる、一歩踏み出したその時、
「──まって、まって。僕は怪しい者じゃあないんだ。
ただ、キミの言った事が耳に入って、それを…聞き流せるほど、僕は人間ができちゃいないんだ」
目の主は新聞紙の上に身を乗り出し、複雑そうに私を見ながら話しかけてきた。
その人は、今思えば大学生くらいの若者だったが、その時の私にはもじゃもじゃの髪と無精髭を生やした冴えないおじさんにしか見えなかった。
真っ赤な手編みのセーターと緑のマフラーをして、こちらが恥ずかしくなる程に目立っていた。
…
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