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2019年9月30日
「もう10月になるってのに暑いですね?」
スカイラインを運転しながら北村が言った。最近、警部補になったばかりらしい。
「ああ」
覆面パトカーは様々なのがある。ミニクーパーもあれば、フェアレディもある。高島たちは桂浜に向かっていた。もうじき11時になろうとしている。
サボル西、どういう意味があるんだろうか?西って人物がサボった?仕事を無断欠勤している?しかし、殺された柄本の周辺に西という人物はいなかった。酉井という人物ならいる。酉井は北村物流に2か月前まで派遣されていた。仕事ぶりはまぁまぁ真面目で、トラックの運転もうまかったらしい。
酉井は高知城の近くに住んでいる。あの城は慶長6年(1601)に土佐藩初代藩主・山内一豊によって築城された。一豊の妻、千代は内助の功で知られている。数年前の大河ドラマで千代を仲間由紀恵が、一豊を上川隆也が演じた。
窓の外に青々とした太平洋が広がっている。
高島たちは車から降りた。土佐湾に弓状に延びる白砂青松の浜辺、よさこい節に月の名所と歌われている。毎年中秋の名月の夜に、高知出身の文人・大町桂月を偲ぶ名月酒供養が催される。
高島は若い頃、サーフィンをやった。サザンオールスターズの『波乗りジョニー』が不意に聴きたくなった。
後藤紗希のアパートは灯台の近くにあった。
階段を上がると丁度、洗濯物を干しているところだった。
「後藤紗希さんですよね?」
北村が尋ねた。
紗希は小さく頷いた。
高島は柄本が殺されたこと、小池が行方知れずになっていることを告げた。
紗希はおろおろするばかりだった。
柄本が毒殺されたのは午後5時頃だった。
その時間の紗希のアリバイを尋ねた。
紗希は香美市にあるアンパンマンミュージアムで働いているそうだ。
昨日は小池には会っていないらしい。
小池が訪れそうな場所を聞いた。
洋食が好みらしく、高知タウンにある『コックドール』には足しげく通っているらしい。
高島のお腹がグ~って鳴った。
紗希がクスクス笑った。
昼ご飯をごちそうになった。彼女のクジラ料理は絶品だった。
高知では捕鯨が盛んに行われていたので、今でもクジラ料理をよく食べる。高島の母親もよく作ってくれたものだ。
串カツ、刺身にたたきどれも美味しかった。
クジラには捨てるところがない。
「彼女の為にも小池を何としてでもつかまえないといけませんね?」
紗希のアパートを出るなり北村が言った。
「せやなぁ」
アパートのすぐ近くには水族館があった。高島も何年か前に彼女とデートに来た。ウミガメやペンギンに餌やりが出来る。高知県のボスキャラ、巨大魚のアカメは実に素晴らしかった。
香美市に向かっている途中、無線が鳴った。
「はい?」
「タカ?俺」
「浅利」
「耳かっぽじってよく聞けよ?酉井の死体が見つかった」
現場は高知タウンにある、わんぱーくこうちって遊園地だ。
アンパンミュージアムには北村だけで向かうことになった。
「何か分かったら連絡くださいよ?」
高島を後免駅で降ろした。後免駅から高知駅まではJR土讃線特急で約7分だ。
北村は大のアンパンマン好きだ。学生時代は山崎製パンでアルバイトしていた。アンパンマンの声を出している戸田恵子は朝の連続テレビ小説『なつぞら』にも出てるし?機関車トーマスやゲゲゲの鬼太郎などいろんなキャラの声を出している。
香美市はアンパンの生みの親、やなせたかしの出身地だ。地下1階のアンパンマンワールドはアンパンマンの住む街を再現したジオラマや、パン工場やバイキン城があった。
紗希は1階にあるミュージアムショップでバイトをしていた。店長はジャムおじさんにどことなく似ていた。紗希のアリバイを証明してくれた。
北村はホッとした。あんな綺麗で料理上手の人を逮捕したくない。
アンパンマンサブレを買って外のベンチで食べた。缶コーヒーとの相性が抜群だ。
屋上の隅にアンパンマンが現れた。こっちを見て手を振っている。
「お~い!お~い!」
北村は子供に戻って大きく手を振った。
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