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即位式
深夜だと言うのに、寝る事は許されない。
私は夜通し飼っている羊の見張りをしなければならない。
月明かりに両手を照らして見れば、泥に汚れたままだ、女の子には悲しい。
遠くに狼の遠吠えが聞こえて身震いする、狼が出た時のために弓と矢を持ってはいるが、やはり怖い。
しかし兄のベンが熱いスープを持って来てくれた。
「ご苦労様、夜はさむいだろ」
にっこり微笑む。
「ティナと俺は血が繋がらないから、先で一緒にならないか」
「うん、そうだね」
私は顔を赤らめた。
口笛を吹くと、私の可愛い犬たちが、すぐに集まって来た。
私は犬達の頭を撫でる。
「妹は両親に可愛がられて、綺麗な服を与えてもらえて、私は家の雑用、兄たちと羊の番ばかり」
母は、前にこんなことを呟いた。
「あんたは、私の子じゃない」
だったら私は羊の子供か、狼が捨てていった子供かと考える。
皆で丸いテーブルを囲み朝食をしていると、けたたましくドアを開き誰か入って来た。
「アンナ女王様が、お亡くなりになられた、早速にアリー王女が兵士を従えて襲って来る」
「大臣様、早く城にジル王女様を、お移ししなければ」
「アリー王女様は、女王様が、お産みになられた双子の片割れだ、ジル王女様は普通の民の子供として育てられた、奴らは、すぐにジル王女様を殺しに来る」
私は思った。
やはり妹のジルは王女様なんだ。
「兵士は20人しか連れて来なかった、集める暇は無かった、みんな死を覚悟して姫を守るのだ」
私も、すぐに弓を手に持った。
いつも羊を守るために使っていたから、私も戦える。
妹のジルを真ん中にして皆が囲み、兵士達と城に向かう。
しかし城の手前の橋でアリー王女の弓兵が、待ち伏せていた。
一斉に弓を射られて、護衛の兵士はバタバタと倒れて行く。
ジル王女にも矢が胸に刺さって倒れた。
大臣も倒れた、私の家族も矢が刺さり倒れた。
「お前は逃げろ」
兄のベンが私に向かい叫んだ。
敵の兵士が剣を抜き迫って来た。
兄は倒れた兵士の剣を握り応戦した。
私の方にも敵兵が迫る。
その時、私の犬たちが敵兵士に襲いかかった。
敵兵士たちは犬に追われていた。
しかし私は恐怖に襲われて、逃げたくて弓を捨てて川に飛び込んだ。
少し流されたが、私は川から上がった。
しかし、すぐに茂みから現れた数百人の兵士に囲まれた。
「私も殺せ」
一人の兵士が近付いて来た。
「ティナ王女様、ご無事でしたか」
「えっ、私が王女?」
「はい、お亡くなりになった女王様はアリー王女様の性格では国を治められないと考え、跡継ぎはティナ王女様にと遺言されました」
「妹が王女様では無いの」
「はい、アリー王女派の目を欺くために、子供の頃から妹様を王女に仕立てたのでございます、妹様をジル王女と偽り、待女をつけて、ティナ様は待女の子と偽りました」
結局、アリー王女は捕らえられた、ジルや家族も大ケガをしたが命は取りとめた。
犬たちも無事だった。
そして皆のケガが治る頃に。私の女王としての即位式が行われた。
私は犬たちを引き連れて宮殿に入る。
両親や妹たちは包帯姿が痛々しいが、みんな微笑み頭を下げた。
ベンも笑顔で涙ぐんでいた。
私は絨毯の上を、生まれて初めてきらびやかな美しいドレスを着て、王座への道を歩いて行った。
行き先には、包帯を手に巻いて痛々しい大臣が、美しい宝石に飾られた王冠を持ち笑顔で待っていた。
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