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はっきり言って、獏がそんな目に遭ったのは自業自得だ。
美明の夢を食べ尽くしさえしなければ、何も責任を感じて不味い夢を食べ続ける必要などなかった。美明はどちらかというと被害者なのだ。
けれど、彼女はまた、獏に同情もしていた。自分に置き換えて考えてみれば、そう獏を責められたものでもない。
「まあ、美味しいものがあったら、そりゃ食べたくなるよね。私だって、毎日でもケーキ食べたいもん。ケーキ毎日食べたからって、罰として激マズごはんを食べさせられたら、そりゃ辛いわ……」
「雑子……」
「あんた私のこと雑子って呼んでたの!?」
しまった! と獏は思ったが、どうしていいかわからず、スッと表情を消してごまかした。
「何その顔。とにかくさ、不味いごはんばかり食べるのは精神衛生上良くないよ。何事もバランスって言うじゃん。普段は普通に美味しいごはん。特別な日はちょっと贅沢して極上のごはん。たまには失敗作の不味いごはんも我慢して食べる。一つの味に拘らず、いろんな人の夢を少しずつ食べればいいの」
「なるほど」
「私のことはもう気にしなくていいから、他の夢主を探しな。てか、そもそもあんたが来なければ私は何も問題なかったし」
「ごもっとも」
獏は無表情で頷く。
「まあ……、そんなに? 私の夢が美味しいなら? たまには食べに来ればいいと思うけどさ……」
「ほんと?」
「ただし、月に一回とか、私に影響しない範囲にしてよ」
「わかった」
「……美明だから」
「え?」
「私の名前。美明だから」
「ミアカ……」
獏は嬉しかった。美明の名を聞いたことで、交流を許された気がして、胸に温かいものが宿るのを感じた。
「ありがとう。これからは、バランスのいい獏になるよ」
美明は音を立てて吹き出した。
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