獏には獏の食がある

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「さ~てと、それじゃ私もごはんごはん! あんたも食べてみる? 私のお手製の中華丼! たまには違うごはんも美味しいかもよ!」  美明は張り切ってキッチンに立った。  こう見えて、少しは料理も出来る。最近はまっている中華丼は、野菜たっぷりでお酢も入って、健康的なメニューだ。  キャベツ、にんじん、ジャガイモ、セロリ、エリンギ。冷蔵庫の残り野菜を使って簡単に出来る。  豚肉は、万一共食いになったら気まずいと考え、今日は入れないでおくことにした。  具材を適当な大きさに切って豆板醤とごま油で炒め、スープを加えて酒、しょうゆ、酢で味つけし、最後に水溶き片栗粉でとろみをつける。  美味しそうな匂いに釣られたのか、獏もソワソワとキッチンを覗く。  冷凍ごはんをチンして、あっという間に二人前の中華丼が完成した。 「いっただっきまーす!」  獏と食卓につき、元気に手を合わせる美明。  その向かいで、初めて食べる人間のごはんに、期待と戸惑いを交錯させてスプーンを握りしめる獏。  果たして自分の体には、これを処理する器官があるのだろうか? そう心配するも、ものは試しだと一口分掬い、口に放り込む。 「マズッッッ!!」  獏は中華丼をそのままうえっとスプーンに逆戻しした。 「何これ……、何これ、何……」  その顔は驚愕のあまり歪められ、スプーンを持つ手はおろか、体までプルプル震えている。  美明は獏の反応を見てあからさまに顔をしかめたが、もしかして何か調味料を間違えたかと、自分も一口食べてみた。
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