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美明はふいに落ち着きを取り戻した。
「獏ってあの、悪夢を食べるとかいう、……お化け?」
「おばっ……、ま、まあ、お化けでもいいけど……」
美明は眉間に力を入れて、改めてその男をじっくりと見た。
背が高く、白っぽいスウェット上下のような格好で、肌の色も透き通る白さだ。少し長めの細い髪は、白黄色でふわりと空気感があり、図らずも顔を覆い隠そうとしていた。その奥に覗く瞳は、鋭くもなく、鈍くもなく、だが色だけは金という特徴を持つ。年の頃は、自分と同じくらいに見えた。
この暗い部屋で、どうしてこんなにはっきり見えるのかと美明は不思議に思ったが、よく見るとこの男自身がかすかに光を帯びている。
「わお」
美明が言った。
「ウケる。なぜに人型」
「え、この格好変かな……」
「まあ、ちょいダサスウェットに疑問はあるけど、それよりまずナチュラルに人じゃん」
「人じゃない、獏だ」
「強いて言うなら獏の擬人化の雑なコスプレじゃん」
「コスプレイヤーじゃない」
「コスプレイヤー知ってるんだ、ウケる」
最初の怯えはどこへやら、すっかりリラックスした美明は、自分のペースで次々ツッコミを入れる。
「あんたが獏なら、なんでさっきの悪夢食べてくれなかったの?」
獏は、とりあえず自分を獏として話を進めてくれるらしいと安心し、元の無表情にスッと戻った。
「苦しそうだから、食べてあげようかな、どうしようかなって、考えていたところだ」
「考える時間あったら食べてよ。何? 君は落ちこぼれなのか?」
「落ちこぼれ?」
気を悪くしたらしく、険しい目つきになる獏。
「失礼だね君は。僕はこれでも人の夢を食べ続けて八百年は生きているんだ。たかだか二十年やそこらしか生きていない君に落ちこぼれ呼ばわりされる筋合いはない」
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