獏には獏の食がある

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「いや~、すごいね獏効果」  翌朝目覚めた美明は、たいそうご機嫌だった。 「変な夢見ないで、めっちゃよく眠れたわ~。どうだい獏くん、私の夢は美味しかったかね?」  カーテンが開いて日の光が入ると、獏は眩しそうに目を細めた。 「あ、太陽大丈夫?」 「平気だ」  美明はあくびをひとつしてから、ベッドを降りてドスドスと獏の前を横切り、バスルームに消えていった。  とんだ肝っ玉だ。獏は思った。  獏だという本人の自己申告を、雑な会話だけですっかり信じ込み、それを夢だったと思い込んだ様子もなく、目を覚ました瞬間から、まだ部屋にいた獏に驚きもせずすんなりと受け入れた。しかもなぜか上から目線で夢のお味の感想まで聞いてくる。  それより何より、仮にも男が部屋に居るのに、断りもなくシャワーを浴びに行った豪胆さ。  ザーザーと流れる水の音を聞きながら、獏はこんな雑女(ざつおんな)のところに長居すべきではないと判断し、置き手紙をしたためて退散することにした。 「あれ? どこ行った?」  シャワーを終えて、バスタオル姿で部屋に戻った美明は、テーブルの上の置き手紙に気づいて、手に取った。  そこには、なんだかよくわからない、ミミズみたいな金色の汚れがテロテロっとついていた。 「読めないし!」  一人で突っ込んで紙を宙に放つと、美明はそれ以上深く考えず、いつもどおり淡々と仕事に行く準備をした。  
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