獏には獏の食がある

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 獏は悩みを抱えていた。だが相変わらずあっけらかんとしている美明に、その悩みを話すのをためらっていた。きっと笑い飛ばされるだけで、真剣には聞いてもらえないに違いないのだ。  美明は部屋の電気をつけ、膝を抱えたままの獏の前を横切り、バッグを床の上に置いてからベッドにドスンと座った。 「前に来たとき置いてった手紙、読めなかったんだけど、なんて書いてたの?」 「……かえります……」 「要らんな~!!」  獏は美明のほうを見ない。 「もうー、暗いなぁ! 何しに来たの? 私とお話ししたいんじゃないのか! え? どうなんだ!」  美明は身を乗り出して獏をドスドスとつつく。獏は無表情でやり過ごす。 「わかった、アレでしょ。私の夢が美味しかったから、また食べたいんでしょ。いやー、残念だけど私、最近めっきり悪夢見なくなったんだわ。悪いね、提供できなくて」  ジットリとした目が美明に向けられる。  無理もない。獏は美明の悪夢を食べ続けていて、もうお腹いっぱいなのだから。  そんなこととは知らない美明は、わかったわかった、今夜は悪夢を見るようにホラー映画でも見てみるよ、と的外れの慰めを言う。  余計なことをされては(かな)わないと、獏は思い切って口を開いた。 「……もう要らない」 「ん?」 「悪夢はもう飽きたんだーーー!」  わっと泣き出した獏に、美明は驚いてポカンと口をあける。
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