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頑なな獏に、美明はやや呆れて言う。
「いや、言いたいことはわかるけどさ、そんなこと言ったらどうにもできないじゃん。てか、楽しい夢も食べ尽くす気? 極端なのよ! 物事には適量というものがあってだね」
「だって……だって君の楽しい夢は、すごく美味しいんだ!!」
「なんだって?」
聞き捨てならない証言が出たことに美明は気づいた。しかし獏は気づかない。気づかないまま勢いよく立ち上がる。
「君の夢は明るくて楽しくて、笑いに満ちていて、見るからに美味しそうで……そんなの一口でも食べてしまったら我慢できるワケないじゃないか!」
「……食べたの?」
「ああ食べたさ! どんどんどんどん食べて、もう出て来なくなるまで食べ尽くしちゃったんだ! だからしばらく間をおいて、そろそろまた出てるかなと思って来てみたら……」
両手を強く握りしめ、プルプルと震わせながら、獏は大声で叫ぶ。
「悪夢だらけになってたんだよぉぉ!!」
「諸悪の根源お前!!」
「だから……だから……」
獏は両手で顔を覆って、再び泣き出した。
「元の状態に戻るまで悪夢を食べて調整しなきゃと思って……、でも君の悪夢、本当に見るからに不味そうで、勇気が出なくて……」
「それがあの夜か」
「同じ悪夢でも、けっこうイケる悪夢も多いのに、君のは……っ、美味しい夢の反動なのか、とにかく激マズで、でも……僕のせいだからって思って……僕……うっうっ」
そんなに泣くほど不味いのか、と、美明はそれを生み出した主としてちょっと申し訳なくなった。
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