お父さんからのエアレター

朝起きると枕元に白い封筒があった

隣に寝ている夫に「ねぇ、知ってる？」と、眠たい声で聞いてみた

夫は急に話し掛けられて状況が飲み込めないから
「んー？」ねぼけ声を発するだけだった

これは夫じゃなさそうだ

私は眠い目をこすりながら、何故か正座してその封筒を手に取った

白い厚手の便箋が5枚も折り重ねて入っていた

広げてまず目に入ったのはクセはあるけど達筆で大胆な文字、筆圧が半端ない・・

あれ！？お父さんの字だ！

お父さんからの手紙？

うそ、お父さんが出してくるわけないし別の人？

状況がよくわからないけどとにかく読んでみようと思った

恵美子へ

恵美子いつも元気にやっているのを見ています
お父さんの葬式の時には棺に手紙を入れてくれてありがとう
それから、プリンや、シュークリームも忘れずに入れてくれて嬉しかったよ

入院しているときも、よく来てくれたね
最後はあちこち悪くなって恵美子のこともわからなくなっていたけど夜中に来てくれたのは薄れゆく意識の中でも、はっきりわかっていたんだよ
ただ、呼吸が苦しくて話すことができなかった
最後に「恵美子ありがとう」と言いたかった・・・

だから恵美子の手紙に返事を書くことにしたんだよ
相変わらずオレは字がうまいだろう？
こっちでも褒められたよ

毎日、恵美子は忙しいな
女の子一人だっから可愛かったけどいつか女の子は嫁に行くだろ

だから厳しく育てたんだ

お父さんが恵美子にあの人と結婚しなさいと勧めた手前、結婚して良かったか？良かったら良かったって言ってくれよって何回も聞いたけど一度も良かったって言ってくれなかったよな

あれは心配だったよ

でも平和にやっているみたいで良かった

それから女の子にあんなに厳しくしなくてもいいんじゃないのってみんなに言われたけど辛抱できない子にしたらあとで苦労するのは恵美子だからと思ってさ

でも恵美子がくれた手紙に「厳しく育ててくれたから今の私がいます」

と、書いてくれてあったのを読んで心底ホッとしたよ

困っている人がいたらできる範囲で手を差し伸べる

人間、誠実が一番

兄弟仲良くしてな

車の運転は気をつけて

いつも見ているよ

じゃあな

恵美子、ありがとう

お父さんより

やっぱりお父さんだ

あっちに行っても返事を書いてくるなんて驚いちゃう

どのくらい時間が経ったんだろう、いや、もしかしたら一瞬の事だったのかも知れない

夫が私を揺り起すので目が覚めた

えっ？
私ずっと寝てたの？

寝てたよ
だけど涙を流してたからさ起こしたんだよ

泣いてた？
私が？

見ると枕が濡れている

あ〜夢だったのか

思い出して慌てて枕元の手紙をさがしたけど無かった

お父さん、エアレターか

でも手紙の内容はすべて私の頭の中にコピーしたからね
大丈夫！

お父さん、ありがとう

律儀に返事くれるなんてね

今度、実家に行ったら特大プリンをお供えするからね

それまで待っててね

お父さんも元気で頑張れ！