2人が本棚に入れています
本棚に追加
.
ウメちゃんは前回来た時、僕に得意気に話してくれたんだ。
彼女の胃袋は普通の人よりも背中側にあって、それによっていくら膨張しても、あばらや他の臓器を圧迫しないような作りになってるんだって。
そう言われてもいまいちピンと来なかった僕は、やっぱり今でも、この小さくて細い体の、どこにあれだけのラーメンが入るのか不思議でしょうがない。
おやっさんは、胃袋が大爆発するくらいの量のラーメンということで、ウルトラビッグバンラーメンって名付けたらしいけど、今のところはこの小さなブラックホールに3連敗中。
総額2万100円をあっさりと明け渡したのだから、額の青筋もどんどん深くなっていくばかり。
「おい、カンゴっ!
何ボサッとしてやがる、さっさと厨房へ来て手伝いやがれっ!」
「は、はいっ、すぐ行きますっ!」
おやっさんに怒鳴られ、慌てて厨房へ駆け込んだ僕は、テーブルに置かれていた丼の大きさに思わず目を疑ってしまった。
いや、これはラーメン丼と言えるのだろうか?
ホテルのエントランスなんかに飾られてある、でっかい観葉植物の植木鉢──そんなふうにしか見えなくて、明らかに前回の丼よりも、格段にグレードアップしている。
冗談としか思えないその器を拭きながら、おやっさんは僕に、くそ真面目な顔で言うんだ。
「いいかカンゴ、今日という今日は、絶対にあの小娘の鼻をあかしてやる。
大食いYouTuberをも返り討ちにしてやったうちのビッグバンラーメン、あんな小娘にそう何度も攻略させてたまるかよ!」
おやっさんは、本気だった。
取り出した麺は、どう見ても軽く10玉を超えていた。
チャーシューは豚の脚1本くらい、もやしに至っては網から水揚げされる時のシラウオみたいに、際限のない山を築き上げていく。
親のカタキみたいな鬼気迫る形相で、おやっさんは包丁をふるい続けた。
大量のスープは、執念の権現みたいにグラグラ煮えたぎり、
敵を殴り倒すような凄まじい湯切りを、必死の汗だくで繰り返した。
そしてついに完成した【ウルトラビッグバンラーメン・スーパーデラックス】
巨大な植木鉢丼には、重力の許す限りに積み上げたもやしの外壁、それをびっしりと二重三重で防護するチャーシューの鎧。
本体である麺はもちろん微塵も見えなくて、僕はそれを目の前に、思わず立ち眩んでしまっていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!