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巨大な丼から溢れんばかりのえげつない食い物を、おやっさんと一緒に台車で運ぶ途中、僕は何度も何度も、心の中でウメちゃんに謝罪していた。
どんなに大食いの彼女でも、流石にこんな化け物じみたラーメンは、いくらなんでも無理に決まっていた。
いくら悔しいからって、おやっさんのやり方も若い女の子相手に大人気ないじゃないかと、ちょっと軽蔑。
けれどもおやっさんはおやっさんで、今度ばかりはどんな手を使ってでも勝ちに行くつもりらしく、
2人がかりでやっとこ持ち上げた丼を、彼女の前にドカンと置きながら、さらにこんなダメ押しをする。
「お嬢ちゃん、うちのチャレンジメニュー、ちょっとばかりルールが変わってねぇ。
前回までは45分以内にスープまで飲み干せば無料だったけど、今回からは30分以内に変更になったんだよねぇ」
ああ……
そんな事を平然と言ってのけるおやっさんは、なんて汚い大人になってしまったんだろうか。
ただでさえ愕然としている挑戦者を、地獄の底まで突き落とすような改変に、さすがのウメちゃんも──
「わあぁぁーっ!
前よりめっちゃ量増えてるやんっ!
嬉しいわぁ、おやっさん、ありがとなぁっ!」
「おい、人の話し聞いてたのか!?
今回からは、30分以内に……」
「こんな良心的なお店が近所に出来て、ウチ幸せやわぁ!
なぁ、もう食べてもいいん?」
──大喜びしていた。
二度見して、三度見くらいしたけど、やっぱり大喜びしていた。
しばらくこめかみをヒクつかせていたおやっさんが、唸り声をあげながらストップウォッチを取り出す。
目から火花を散らすけど、ウメちゃんはすっかりラーメンに高揚していて見向きもしない。
そんな態度に歯噛みしながら、おやっさんはその手をゆっくり振り上げると、ボタンを潰し割るくらいの勢いで、
「よぉぉーい、スタァートォォッ!!」
と、ストップウォッチに癇癪をぶつけた。
「いっただっきまぁーすっ!!」
満面の笑みで合掌したウメちゃんの口が、次の瞬間にはうわばみみたいに大きく開く。
肉厚で大きな自家製チャーシューが、一気に3枚、その中に吸い込まれる。
冬眠前のリスみたいに、頬パンパンに頬張った肉片が、肉汁を滴らせながら噛み砕かれていく。
あっという間に飲み込んだと思うやいなや、再び3枚のチャーシューが飛び込むように消えていく。
唖然と見つめる僕らを尻目に、ウメちゃんはとてつもない勢いでラーメンに喰らいかかっていた。
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