ウメちゃん☆喰らいMAX

3/7
前へ
/7ページ
次へ
. 巨大な丼から溢れんばかりのえげつない食い物を、おやっさんと一緒に台車で運ぶ途中、僕は何度も何度も、心の中でウメちゃんに謝罪していた。 どんなに大食いの彼女でも、流石にこんな化け物じみたラーメンは、いくらなんでも無理に決まっていた。 いくら悔しいからって、おやっさんのやり方も若い女の子相手に大人気ないじゃないかと、ちょっと軽蔑。 けれどもおやっさんはおやっさんで、今度ばかりはどんな手を使ってでも勝ちに行くつもりらしく、 2人がかりでやっとこ持ち上げた丼を、彼女の前にドカンと置きながら、さらにこんなダメ押しをする。 「お嬢ちゃん、うちのチャレンジメニュー、ちょっとばかりルールが変わってねぇ。 前回までは45分以内にスープまで飲み干せば無料だったけど、今回からは30分以内に変更になったんだよねぇ」 ああ…… そんな事を平然と言ってのけるおやっさんは、なんて汚い大人になってしまったんだろうか。 ただでさえ愕然としている挑戦者を、地獄の底まで突き落とすような改変に、さすがのウメちゃんも── 「わあぁぁーっ! 前よりめっちゃ量増えてるやんっ! 嬉しいわぁ、おやっさん、ありがとなぁっ!」 「おい、人の話し聞いてたのか!? 今回からは、30分以内に……」 「こんな良心的なお店が近所に出来て、ウチ幸せやわぁ! なぁ、もう食べてもいいん?」 ──大喜びしていた。 二度見して、三度見くらいしたけど、やっぱり大喜びしていた。 しばらくこめかみをヒクつかせていたおやっさんが、唸り声をあげながらストップウォッチを取り出す。 目から火花を散らすけど、ウメちゃんはすっかりラーメンに高揚していて見向きもしない。 そんな態度に歯噛みしながら、おやっさんはその手をゆっくり振り上げると、ボタンを潰し割るくらいの勢いで、 「よぉぉーい、スタァートォォッ!!」 と、ストップウォッチに癇癪をぶつけた。 「いっただっきまぁーすっ!!」 満面の笑みで合掌したウメちゃんの口が、次の瞬間にはうわばみみたいに大きく開く。 肉厚で大きな自家製チャーシューが、一気に3枚、その中に吸い込まれる。 冬眠前のリスみたいに、頬パンパンに頬張った肉片が、肉汁を滴らせながら噛み砕かれていく。 あっという間に飲み込んだと思うやいなや、再び3枚のチャーシューが飛び込むように消えていく。 唖然と見つめる僕らを尻目に、ウメちゃんはとてつもない勢いでラーメンに喰らいかかっていた。 .
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加