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見た目こそはドン引きするような化け物ラーメンだけど、味は僕が保証するし、連日のお客さんの賑わいだって、それを証明してると思うんだ。
とんこつベースの味噌スープは、白味噌と仙台味噌を絶妙なバランスで調合しており、こってりと濃厚ながらくどさをまるで感じさせない。
麺は太めのストレートで、モチモチとした弾力があり、濃い目の汁を丁度過不足なく身に纏ってやって来る。
特にこだわりはチャーシューで、鹿児島の契約豚舎からわざわざ取り寄せており、締まっていながらホロリととろける肉質が、仄かな甘みのある脂身とハーモニーを奏で、まさに絶品、非の打ち所のない味だろう。
そんなおやっさんの情熱の肉を、あれよあれよという間に飲み下し、ウメちゃんは早くも、恐怖のもやしマウンテンに到達しようとしていた。
シャキシャキしたもやしの快感的咀嚼音を聞きながら、僕はいつの間にか、自分が微笑んでいることに気づいていた。
ウメちゃんが来る度、ワクワクと心踊る気持ちはこれなんだ。
こんなに美味しそうに、こんなに嬉しそうに、全身全霊で歓喜を現しながら、食べ物を食べる女の子。
こんな子を僕は今まで見たことがないし、彼女の食べっぷりを見ているだけで、こっちまで幸せな気分になってしまうのはなぜだろう?
天高く立ちはだかるもやしマウンテンは、始めはどんなにウメちゃんががっついても、一向に量が減らないように見えていた。
だけどそれは夕陽が山に欠けてくみたいに、少しずつ、着実に量を減らしていく。
店にいた何人かのお客さん達が、こぞって彼女の周りを囲み出した頃。
あれだけ盛り上がっていたもやしもそろそろ底が見え、ほじくれば麺が顔を出すくらいになっていた。
「いいぞぉ、姉ちゃん、頑張れやぁ!」
「すごぉいっ、頑張って、後は麺だけだよっ!」
そんな歓声が聞こえているのかいないのか、ウメちゃんは最初のペースをそのままに、割り箸で大きな麺の束を掴み上げる。
そしてそのままおもむろに、
大きなひと束を、
煌めく飛沫を撒き上げながら、
逆流する滝の如く、
天に昇る龍の如く、
清々しいほどの豪快な音を鳴らして、
“啜り上げた!”
「うおぉおぉー、麺来たぁーっ!
姉ちゃん、最高の啜りっぷりだぜぇ!」
ああー、気持ちいい……
やっぱりウメちゃんの食べっぷりは、僕をうっとりと夢心地に誘ってしまう……
おやっさんのストップウォッチを覗いたら、残りまだ17分もあるじゃないか。
これは、ひょっとしたらひょっとするぞ。
──と、デジタルの数字から少し目線を上げると、そこには真っ赤な顔で目を吊り上げ、ギシギシと歯を鳴らすハゲ頭があった。
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