そのくらいの照度

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「何?」 「……高2の秋の県大会のこと」 「あぁ、あの時か。……なんで」 柔らかかった雰囲気は一転した。 「先に言っとくね。私責めたいとか理由を聞きたいとか、そういうことを言いたいわけじゃないから」 「なんのこと」 「あのとき出場辞退が決まって……、次の日、グラウンドの清掃ロッカーが壊れたじゃない。あの日、私忘れ物を取りにグラウンドに戻って、満月だったから電気つけなくてもよく見えるなって思ったから、はっきり覚えてるんだ。私見てたの。あれ、悟だよね」 「……いたのか」 高2の秋季大会の県大会。部員の飲酒と喫煙が発覚。関係者は1、2年生と他の部の奴ら。そのときのレギュラーメンバーがほぼ関係していて、野球部は出場を辞退した。 そのときレギュラーだった俺は、連帯責任を取らされたことに表面上は従ったが、全く納得がいかなかった。その上、その問題だった集まりに、他のレギュラーは関わっているのに自分は全く関わっていないという事実にも気づかされて、別の意味で愕然とした。 遅くまで自主練で残っていて、やり場のない怒りの矛先を、その辺にあった物に向けたのだった。 翌日、ボコボコのロッカーが発見され、騒ぎにはなったがうやむやになった。 「犯人を知ってたなら言えばよかったのに」 彼女は首を振った。 「誰がやったとかそんなことはどうでもよかったの。だってみんな連帯責任なんて納得いってないんだから。誰がやったっておかしくないと思う」 「そうじゃなくて」と詩乃は言い淀んだ。 「そうじゃなくて?」 「私がびっくりしたのは、次の日悟が何もなかったかのように平然としていたこと」 詩乃は立ち止まってこちらを見た。 「真面目でコツコツ頑張る正直な人だと思ってたけど、そんなふうにしらっと知らん顔して通り過ぎちゃうような……」 「何が言いたいの」 「それから、この人どういう人なんだろうってずっと思ってたの。みんなが思っているようなイメージとは違う人なんじゃないかって」 「……」 「それから気になってしょうがなくて……。ずっと見てた。でも、真面目なコツコツの人だった」 呆れたように詩乃は笑っていた。 「ごめん。ずっと見てたとか気持ち悪いよね。でも聞きたかったんだ。その黒い部分、いつもどこにあるの?って」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加