そのくらいの照度

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10年ぶりに高校のときの同級会に出た。 懐かしい面子に話が弾み、当時は良かったという思い出話と、今何をしているという近況報告に花が咲いた。 酔いが回り気分が良かったので二次会に行こうかとも思ったが、きっと派手な奴らの自慢話についていけず段々居たたまれなくなり、最後は酔い潰れた奴の面倒を断われずに押し付けられる自分の姿を予見して帰ることにした。 月明かりのきれいな夜だった。駅に向かおうとすると、「私も同じ方向だから」と言って水原(みずはら)詩乃(しの)もついてきた。 「いいの?」と聞くと、「うん。いいの。もう話についていけないし」と言った。 詩乃は野球部のマネージャーで、高校時代は一緒に甲子園を目指した仲間だ。 「(さとる)は? 市役所に勤めてるんだっけ?」 「うん、まあ」 「お役所って大変?」 「仕事自体はそんなに大変じゃないんだけどね……まあ色々」 「そっか。なんか悟らしいのかな」 悟らしいか。真面目で勤勉、忠実に仕事をこなす。公僕のイメージはそんなところだろうか。 「詩乃だって……。あの頃と変わってないだろ。ちゃんとしっかり仕事してそうだし。あの頃、マネージャーの仕事だって梨香子がうっかりしてることは、みんな詩乃がやってたんだろ」 「えっ」 「周りがよく見えてるなって思ってた」 「そんなふうにみてくれてたの?」 「がんばってたのは見れば分かるよ」 マネージャーは3人いたが、チーフマネージャーの梨香子が華のある子だったので余計に詩乃は地味で目立たなかった。 自分の性分のせいか俺はいつも目立たない人間に目が行きがちで、みなが梨香子に気を取られていたとき、詩乃が真面目に実直に仕事をこなしていた姿はよく覚えている。 「ねえ、悟」 「何?」 「私ずっと話したいことがあったんだ」 「ずっと?」 「うん。ずっと」
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