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「どうしよう、見ても良いのかな」
私は祖母の部屋を見渡して、そっと手紙を開いた。
『拝啓夏美様。
学徒出陣して早くもひと月が経ちました。その後お変わりは無いでしょうか?。
父上様や母上様は、いかがお過ごしなのでしょう。息子は私ひとりなので、跡を継げずが心残り。あの日、約束した事を胸に私は明日、天皇陛下万歳とお叫びし、神風特攻隊員として敵艦へ向かいます。約束を守れずに、先逝く私を許して下さい。
神風特攻隊は、行きの燃料だけを載せて、飛行機ごと我が身を投げ撃たねばなりません。 無事に帰国したら、私の妻になって下さいと、我が儘を云ったばかりに、あなたを縛り付けてしまったのではと、心配です。私を気にせず、あなたはあなたの人生を歩んで下さい。ただ、私を忘れないで欲しい。幼い頃から傍に居た幼なじみを。
どうか、愛しています。愛しています。
我が儘ばかり云う私を許して下さい。
あなたの傍に居られない、私をどうか哀れと思い、記憶の隅に置いておいて下さい。
1945年3月10日 英一郎』
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