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私は写真に写る兵士を見詰め、最後のラブレターを大事にしていた祖母を思った。
戦後70年を超えたとはいえ、沢山の人達の胸に、魂に傷を残した戦争。私は戦争を知らない。
だからと云って、自堕落に過ごしてはいけない。今在る『幸福』は沢山の犠牲の上に成り立っている。
私はこの手紙を、祖母の棺に、胸許に置いた。
「どうしたの? それ」
母が私の隣に立って、黄ばんだ手紙を見詰めた。
「おばあちゃんの宝物」
翌日の告別式で、荼毘に伏された祖母を、外から蒼空を見上げていた。白い煙りが天に向かって立ち上る先に、私は見た。
軍服を着た兵士と、若い姿の祖母が見詰め合い、手を握り合っている姿を。
「来世で一緒になれると良いね…おばあちゃん」
私の言葉に応えるかのように、晴れた蒼空から雨が降って着た。
「キツネの嫁入りね」
親戚の伯母達が呟くのを聞いて、私の隣に居た母を見た。
「晴れた日に雨が降るのを、昔の人達は『キツネの嫁入り』って云ってたのよ」
「ふうん」
私はなんだか切ない想いで、蒼空を見上げ、手を合わせた。
『夏美さん、愛していますよ』
『ええ。私もですよ英一郎さん、今度こそ絶対にこの手を放さないで下さいね』
『放しません決して夏美さん』
end
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