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僕は彼女と同棲してもうじき一年が経つ。
出会いのきっかけは図書館。僕が大学の卒論で狼をテーマに取り上げて、資料を集めていた時だった。運命のようだが、同じ本を取ろうとして手が触れた。
彼女はひどく怯えていて、しきりに謝ってきた。最初は変な子だと思った。でも、同じ狼の本を手に取ろうとしたのだから、もしかしたらと思って僕は聞いた。
「あの、狼については詳しいですか?」
僕が尋ねると、彼女はコクコクと首を縦に振る。
「よかったらこの後、喫茶店などで意見交換しませんか? 卒論でちょっと煮詰まっていて、本当にもしよかったらでいいんです」
そう言うと、彼女は快く了承してくれた。
それから僕と彼女は喫茶店で話し合った。興が乗って、いつの間にか話に熱中し、卒論の手は止まっていた。それでもその都度メモ書きはしていたから、困ることはなかった。タメになる彼女の話、あれがなければ僕の卒論は完成していなかったと思う。
僕はあの日のから彼女と遊ぶことが増えた。遊ぶ回数が増すごとに笑顔は増え、警戒心もなくなっていた。いつの間にか彼女とは腹を割って話すような存在になっていた。
それからとんとん拍子で同棲の話が持ち上がり、僕が卒業後に一緒に生活空間を共有することになった。
共働きで休日の都合が合うことは少なくなったけど、それでも二人一緒に休みの時は毎回のように出かけた。
そんな彼女だが、同棲してから不可解なことが一つある。時々、帰ってくるのが夜明けなのだ。
彼女は残業というが、そんなことはないと思い、不信感だけが募っていた。
それがある日、爆発した。初めてケンカをした。食事の時間を互いにずらしたり、わざと会う機会を減らした。
そんなある日、彼女から話を持ち掛けてきた。本当の自分を見せて、私を嫌いにならないか。ということを聞いてきた。もちろん、それで嫌いになることはない。僕は「大丈夫」と返す。
その日がやってきた。ドアの向こうにいる彼女は、心の準備ができたら合図を出すと言った。
僕が今かと待ちわびているとき、窓を開ける音がして僕は待たずにドアを開ける。
暗い部屋の中、月明かりが彼女を照らす。
頭から足先まで毛深く、獣のような耳が生える。人間には到底ないしっぽまで出る。
「ごめんなさい。嘘ついてごめんなさい」
逃げようとしていた彼女は崩れ落ち、泣きじゃくる。僕がとっさに感じたのは怒りではなかった。性愛だった。
「好きだよ」
僕は優しく抱擁する。毛の質はよくなく、少しゴワゴワして痛いけど気にならない。
「愛してる」
僕が耳元でささやくと、彼女はせきを切ったように泣きじゃくる。今までどれだけ辛い思いをしてきたのか僕には分からない。けど、この一言で彼女を救うことができたらどれだけ嬉しいか。
でも、僕こそ謝らなきゃいけないことがある。僕は、月明かりの下の彼女しか愛せなくなるかもしれない。
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