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第一章
「今日は綺麗な満月だな」
『ええ、いつもの月よりも大きく見えるわね……』
普段の何気ない会話をしている時も、あなたはずっと私の事を抱きしめて頭を撫でてくる。
それは私だけが知っているあなたの癖……悲しい事があった時はいつもこうして私に甘えてくるのよね。
どうせまた職場で嫌な事でもあったんでしょ? ほらほら、慰めてあげるから私の頭なんかで良かったら幾らでも撫でなさい。
「なぁ……満月には不思議な力があるって何かの本で読んだ事があるけど、お前は知ってるか?」
あ~! またお前って呼んだ! 私の名前はユキコよ、ユ~キ~コ! 何度言ったら分かるの!
いつも面倒臭そうにお前お前って。
幼い頃からの知り合いとは言え、女の子を相手にする時にはキチンと名前で呼ぶのが礼儀ってもんでしょ!
「満月の光の下で願った事は何でも叶うって……だったら俺はお前と離れたくない……ずっとずっとお前と一緒に暮らしたいよ……」
え?……。
え~!
急にどうしちゃったのよ?
物心が付いた時からあなたはいつも傍に居てくれて、優しいお兄ちゃんだって思ってたのに!
あなただって私の事はいつも妹みたいだって言って揶揄ってたでしょ。
そ、それなのにいきなり告白だなんて、どう返事をしていいのか困っちゃうじゃない。
「生まれたばかりのお前と初めて出会ったのは六歳の時だったけど、俺は一目見た時からお前に心を奪われてしまったんだ……」
うわ~、さっきの動揺を返してよ……。
赤ちゃんを見て一目惚れって、さすがにそれは私でも引いちゃうわ~……。
今の発言は私以外の人にはしない方がいいと思うわよ、絶対に変な人だって思われちゃうからね。
いい? これはあなたの事を攻めてる訳じゃないわよ、親切心で忠告してあげてるんだからね。
「もう俺はお前なしでは生きてはいけないのに……なのにどうしてお前は俺の元から消えてしまうんだろうな」
待って待って待って! 一瞬引いちゃったけど別に拒否した訳じゃないから! 変な人だとしても私は全然気にしないし!
って言うか、そんな所も含めて全部……。
ただ、急にそんな事言うもんだから驚いちゃっただけなのよ……私だって、その……あなたの事が好きだし、ずっと一緒に居たいもの。
だから黙って消えたりなんかしないわよ。
「願いが叶うなら何だってするのに……なのに……どうして俺の願いは受け入れてもらえないんだろうな……」
『大丈夫よ、私も一緒にお願いしてあげるから……』
あなたが何をお月さまに願うのかは分からないけど、誰よりも優しいあなたの願いはきっと叶うと思うわ……だからもう泣かないで。
「はは、お前はいつも優しいな」
ほら、いつものように私が涙を拭ってあげるから……。
って、あれ?……なにこれ、体が思うように動かせない。
あなたの悲しみを癒してあげたいのにどうして……。
…………
…………
あ、そうか……私……
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