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第二章
「今日は綺麗な満月だな」
『にゃ~……』
お前って俺の言葉が分かってるんじゃないかって思うくらい、毎回タイミングよく返事をしてくれるよな。
普段の何気ない日常でも、いつもお前の存在が俺の心を癒してくれた。
子供の頃からいつも撫でていたせいか、すっかりこうする事が癖になってしまったけど……悲しい時も甘えさせてくれるのはお前だけだったな。
でも今度の悲しみはお前を撫でるだけじゃどうにもならないよ……。
「なぁ……満月には不思議な力があるって何かの本で読んだ事があるけど、お前は信じられるか?」
なんだよ不機嫌そうに鳴いて……お前って名前を呼ばないといつも怒るよな、そんなにユキコって呼んでほしいのか?
確かにユキコって名前は俺が付けたんだけど、中学生や高校生になると友達の前で名前を呼ぶのが少し恥ずかしかったんだよ……だから照れ隠しにお前って呼ぶのが当たり前になって……そんなに嫌だったんなら謝るよ、ごめんな。
「満月の光の下で願った事は何でも叶うって……だったら俺はお前と離れたくない……ずっとずっとお前と一緒に暮らしたいよ……」
どうしてだろうな……
お前は俺よりも早く年を取るって分かってた筈なのに……。
だからこそお前が安心して旅経てるように笑って見送るって決めてた筈なのに……。
駄目だな俺って……涙が止まらないよ。
「生まれたばかりのお前と初めて出会ったのは六歳の時だったけど、俺は一目見た時からお前に心を奪われてしまったんだ……」
正直な話、お前がうちに来る前は世話をするのなんて面倒だって考えてたんだ。
だってそうだろ? 遊びに行く時間とかも全部取られちゃうって思ってたからな。
でも、そんな考えはすぐに吹き飛んじまったよ。
お前の愛くるしい笑顔にどれだけ癒された事か。
お前と出会ってからの十七年間は本当に幸せだった。
辛い事も悲しい事も、お前が居てくれたから乗り越える事が出来たんだ。
「もう俺はお前なしでは生きてはいけないのに……なのにどうしてお前は俺の元から消えてしまうんだろうな」
それなのに、こんなに細くなってしまって……。
なぁ、頼むからもう一度元気に鳴いてくれよ!
もう一度俺の手にじゃれついてくれよ!
満月の光には不思議な力があるんじゃないのかよ!
何か条件があるんだったら教えてくれよ!
「願いが叶うなら何だってするのに……なのに……どうして俺の願いは受け入れてもらえないんだろうな……」
『にゃ~……』
こんなに弱っても俺の事を慰めてくれてるのか?
「はは、お前はいつも優しいな」
いつもみたいに俺の涙を舐めようとしてくれてるのか?
無理するなよ、もう首を持ち上げる事もできないじゃないか!
もういいから! 俺は大丈夫だから!
月の光に願いを叶える力があるなら頼む!
頼むからこれ以上ユキコを苦しめないでくれ!
何でもするから……。
お願いだ……。
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