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「おい、冴木。この写真、なんか変じゃないか。このかすみかたといい、妙に上からのアングルといい、別にポーズもとっていないことといい……」 「はい、盗撮です」 「……また例の『黒歴史蒐集会』の活動か。今度は何を企んでいるんだ」  黒歴史蒐集会は冴木が入っているサークルで、活動内容はその名の通り人の黒歴史を暴き蒐集するという悪趣味極まりないものである。  蒐集するだけに留まらず、黒歴史を利用してキラキラ系テニスサークルの破壊工作に勤しんでいるというえげつない噂もある。  サークルに一切入っていない僕は問題かもしれないが、冴木みたいに胡散臭い団体に入るのはもっと問題だと思うものだ。 「……好奇心は猫をも()る。あんまり余計なこと聞くもんじゃないですよ」 「人の黒歴史漁ってるやつに言われたくねえ」 「とにかくこの男、名前もなにもわからなくて困っているんです」 「ん? キトウ君じゃなかったのか? そういえばキトウって珍しい名前だな。鬼に頭で鬼頭か」  鬼頭って、チャラ男とはあんまり釣り合わない名字だ。冴木なら似合うかも知れないが。 「いえ、亀です」 「?」 「いや、このキトウというのは便宜上の仮名で……。このエリンギみたいな顔の形、みようによっては……」 「そこまでだ、冴木。身長180cmの強面が頬を赤らめてそっち方面のネタを話すな」 「だって……これはせんぱいがいっただけでぇ……ぼくはいやらしくないもん……」 「大男がくねるな! 猥褻物陳列罪かなにかで通報するぞ!」 「てへ」 「強面のてへぺろッ! よくわからない性癖を開発されそうだ!」 「それはそうとハポンくん、一つ頼みたいことがあるんですが……」 「なんだ、まさかキトウ氏の黒歴史蒐集を手伝えと言うんじゃないだろうな」 「GPAがシャー芯みたいな数字の人間のくせにやけに鋭いですね。驚きました」 「細目を見開くのはまだしも、こんなことで瞳孔まで開かすな。僕に小学生レベルの読解力があったことが命に関わるくらいショッキングだったのか」 「別に悪い話じゃないと思いますよ。謝礼ははずみますし、君、暇でしょ」 「却下だ」  そういう問題じゃない。僕は人間として大切な何かを捨ててまで刺激を得ようとは思わない。 「ハポンくん、ちょっと理想的な大学生像を語ってみてください」 「洒落たロング丈のTシャツを着込み、フラッペチーノ片手に颯爽とパソコンを叩く。授業を終えるとサークルで爽やかな汗を流し、ときには彼女とドライブしたりする」 「それに比べて君は?」 「毎日同じチェックシャツ、授業には出ず外出もせずお布団潜って禍々しい栄養ドリンク片手に動画眺めて……あぁ、悪かったな。路傍のスライムみたいにどうしようもない人間でわるかったな!」 「いや、路傍のスライムなんてもんじゃありません。特売で大量入荷されたものの、どこか微妙に形が歪なせいで誰にも手に取ってもらえず、食品ロスという戒名とともに塵芥と化す憐れなタマネギ。それが、君だ!」 「やめてくれ……例えはよくわかんないけど、なんか空しさのあまり血反吐を吐いて失血死しそうだ……」 「そんなどうしようもない人生でいいんですかッ! スパイスのない生活を送ってて、そんなの生きてるって言えるんですかッ! たまには冒険しましょうよ! 刺激を浴びましょうよ! さぁ! キトウを尾行してトキメキ・キャンパスライフを手に入れるのです!」 「微妙に説得されかけたけど、やっぱおかしいよ! 尾行って、スパイスなんてもんじゃない! ハバネロだよ! 激辛だよ! 人生ハードモードだよ! そんな檻に入れられそうなこと、誰がするか! 断固、拒否だッ!」 「君は……何か大きなことを見落としていませんか」  顎をくいっと傾け、横目見下ろしでポーズを決める冴木。  いわゆるシャフ度、美少女がやると脳震盪が起こりかねないほどの身震いを引き起こす色気溢れる姿態である。が、強面の男の手に掛かれば菱川師宣発案の性癖「MIKAERI」もただの脅迫行為にしか見えない。 「なんだ、その大きなことって……」 「これは依頼なんかじゃないです。交渉です。交渉には鞭をもって臨むもの。いいですか、僕は黒歴史蒐集会の者です。君が中学生のとき、悪……」
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