エドワード・ホッパー(ナイト・ホークス)

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エドワード・ホッパー(ナイト・ホークス)

スマホのアラームが鳴った。寝ぼけなから、音のなる方に手を伸ばす。5時30分。まだもう少し惰眠をむさぼることができる。オレンジ色に光る「スヌーズ」のボタンを押して、また枕を引き寄せ、再び布団のぬくもりと、緩やかな時間の流れの中に戻っていく。 またスマホのアラームが鳴った。スマホの元々の音源の中に入っている、緩やかな朝の調べのような機械音がなる。少し前まではビートルズの楽曲『I'm only sleeping』を冗談で流していた。 ジョンが忙しすぎて眠たいから、寝かせてくれ、と言う願いを曲にしたのだ。『リボルバー』というアルバムに入っている。ビートルズが単純なアイドルから実験音楽に手を出して、アーティストとして変化し始める、そんなアルバムだ。 同じ曲で毎日起きていると、聴きすぎてその曲が嫌いになる。そんな風になりそうだったので、『I'm only sleeping』はやめて、デフォルトのアラームの中でも、あまりけたたましくないものを選んだ。 5時40分。そろそろ起きてもいいだろう。恵美はもうとっくに起きて、朝の支度、朝食作りや洗濯物のあれこれをやっていて、ベッドのとなりは誰もいない。結婚するときにベッドがいいか布団がいいか嫁と話し合ったのだけれど、特にこだわりはないらしく、どっちにしろケンカしたらソファで寝るから、と言われてじゃあ、ソファはあんまりふかふかじゃなく、クッションの硬いやつにしようと言って、俺たちは小さなセミダブルのベッドを買った。 足元に大きな窓があるのだが、カーテンはつけてない。結婚当初は黄緑のカーテンをつけていたのだが、朝の光がないと起きられないと、俺が駄々をこねたので、一年と経たずに取り外してしまって今は光を遮るものは何もなく、季節柄もう陽がのぼっていて、あかりが差している。 俺はベッドから起きあがり、洗面所に行って濃紺のパジャマを脱ぐ。ベッドの周りに脱ぎ散らかしておくと、恵美がしこたま文句を言うので、寝起きでヨタヨタと洗面所までやってきて、洗濯機に直接パジャマを放り込む。 パジャマの柄は自転車の柄で、自転車乗りの俺に嫁が一昨年誕生日プレゼントでくれたものだ。夢の中でも自転車に乗れるんだよ、よかったねと、嫁は言ったが、ケンカをしてなければ自転車のパジャマを脱ぎ捨てて、嫁に乗っている時もあるので皮肉なものだ。
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