欽ちゃんの出前と奇跡の恋のお話

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 あれは一年半前です。それまでは、毎週金曜の夜に出前に行ってました。いや、出前は毎日行ってるんすけどもね。金曜の夜に、西町まで出前に行ってたの。毎週。それがあの子の家だったんすけども。西町って遠くてですね。チャリ漕いで十分。だから大将に麺硬めに茹でてもらって、全力疾走で出前してました。  毎週金曜の夜。決まって六時半頃。西町の三浦ですが、十八番ラーメン醤油味を二つお願いします。おじさんの声で注文の電話があって。出前に行くと料金が玄関に置いてある。千三百円。ピンと伸ばされた千円札の上に百円玉が三枚。ラーメン一杯六百五十円っすから、×2で千三百円丁度。いつもキッチリ千三百円。あっしはラーメンを玄関に置いて、代金をいただいて帰ってくる。  その家、三浦さんっすね、三浦さんの家の玄関には入るんですけども、家の人とは会ったことがない。お金と一緒にメモが置いてあるんです。ご苦労様です、とか、ありがとうございます、とか、メモに書いてあるんです。女の人の字で。  男の人が注文して、女の人のメモが置いてある。そんなかんじの、ちょっと不思議な出前でした。
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