明るい月の、生みの母

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 すると、彼女はうっすらと微笑した。  先刻の、十代の少女のような笑みとは打って変わって大人びた――世の中のすべてを嘲っているような、そんな笑みだ。 「パク様は、純粋でいらっしゃいますのね」 「……いや、そんなことは……」 「わたくしも、あなた様のような殿御がお相手なら、お報せしたかも知れません。ですが……あの方は重荷に感じるでしょう。ほかの、一般的な両班(ヤンバン)の殿御と同じように」  クスリ、とやはりどこか、何事かを嘲るように笑って、彼女はポンと弦を(はじ)く。 「両班の男はとかく勝手なもの。我ら妓生を解語花(ヘオファ)……人語を解する花だなどと言って人間扱いしないクセに、床の相手はせよと(おっしゃ)る。その結果、子ができるのなど当然の帰結だというのに、こちらが身ごもれば遠ざけるだけならまだしも、流すようにあの手この手で説得なさろうとする、人でなしな方もおられる……」  チョルホは、言葉を失った。何と声を掛けていいか分からない。  すると、その空気に気づいたのか、彼女は苦笑に近い笑みを浮かべた。 「……失礼を。ほんの愚痴でございます。取るに足らぬモノが言うことと、お捨て置きくださいませ」 「あの」 「はい」 「名を……教えては貰えぬだろうか」 「何故?」 「頼みごとをするに、名を知らぬでは頼めぬ」  彼女はこちらへ顔を向けたまま、小首を傾げた。しかし、程なく口を開く。 「……ヒョングム。チン・ヒョングムと申します」
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