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おもてなし
それは、軽はずみで出た言葉だった。
「ああ、いいよ。今度、君のために何か作ってあげるよ。何がいい?」
別に他意は無い。
付き合い始めたリリカに「一人住まいだから料理は自分でしている」と話をしたところ「だったら何か食べてみたい」と言われて、そう応じただけだ。
「ええ!ホント?! やったー!」
リリカは、まるで子供のように手を叩きながらピョンと飛び上がって喜んだ。ぱっつんボブの黒髪がふわりと揺れる。
くそ……可愛いぜ。
僕の男友達はそういう彼女の仕草をして『あざとい』と言うが、僕はあまり気にしていない。
そして、彼女は満面の笑みで言ったんだ。
「じゃぁ私、リュウ君の作ったカレーライスが食べてみたい! 私、カレーが大好きなの!」
……と。
「了解。カレーライス? その位でよければ全然OKだ。じゃぁ、また時間が出来たら連絡するよ」
そう約束して、その日のデートは別れたんだ。
その時、僕は深く考えてなんかいなかった。
カレーなんて、自分で食べるためによく作っているし、特に問題があるとも思えない。いつも通りに準備し……
いや待て。
一応それでも「カレーが大好き」の真意だけはチェックしておこう。彼女が使っている画像投稿サイトに、何か関連する画像が投稿されているかも知れない。
手持ちのスマホで、聞いたIDを検索すると……。
やはりか!
思わず、頬がひきつる。
『絶品のインドネシアカレー』
『雑誌でも紹介された超有名カレー』
『この冬、絶対に流行るカレーの名店』
……等々。
ネットの画像には、『有名店』のカレーが並んでいた。
『カレーライスが大好き』
……なるほど、そういう意味か……っ! これは手強いぞ……。
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