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――― それから、15年後。
「痛てぇ!」
リビングのソファーに座っていた僕は背後から頭を叩かれ、思わず声を上げた。
「何をするんだよ、痛いじゃないか!」
「うるさいわね! 何でミカに『そんな話』をしているのよ! いったい何年前の話だと思ってるの? もう、いい加減に忘れなさいよ!」
妻のリリカが、顔を真っ赤にして頬を膨らませた。
「ぎゃっはっはっは!」
娘のミカが、僕の向かい側で腹を抱えて笑っている。
「ねぇねぇ、ママ。パパの話ってホントなの? ホントに、パパがそこまでして作ったカレーにオイスターソースをブチ撒けたのぉ?」
「し、仕方ないじゃん! そんなに力作だったなんて知らなかったんだから!」
プイ!と横を向き、リリカは台所へと消えた。
「でもさぁ、パパ。それで『別れる』って話にならなかったの? これが男女逆ならフツーに絶許だよね?!」
涙を流しながら、ミカが尋ねてくる。
「ははは……まぁね。別にパパが事前にアレコレ説明したわけじゃないし。それに、ママにも悪気があったんじゃなくって……」
苦笑いで返す。
実は、この話には裏があった。
僕が肉の件で相談をしたシロウが、冗談でリリカにチクったのだ。「何か、準備しているらしいぞ」と。「普段はズボラなリュウのヤツが、何か色々やろうとしてる。ヤツに料理のセンスは無いから、きっとスゲー不味いカレーが出てくるから覚悟しとけ」って。
リリカは、この冗談を真に受けたらしい。『大変な事になった』と。
それで、何がどうなっても『食えない』という事態を避けるために、最初にオイスターソースを掛けたのだそうな。後から掛けると流石に僕が気を悪くすると思って。
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