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野菜は競争
次の日。
僕は8時5分前にその農協へ行き、店に入る事もなく、そのまま無念の帰宅となった。
何しろ、僕が店に着いた頃には駐車場に車を止めるのも一苦労なほどの大混雑で、シャッター前には大行列が出来ていたのだ。
そして、開店の時間になってシャッターが30センチほど開いたと思った瞬間。先頭のオッサン達が、まるで匍匐前進でもするかように滑り込んで進撃したのである。
当然、シャッターが全開になれば、後は残った人間で全速力のかけっこだ。
……なるほど『5分で完売』とは、そういう意味か。
くそっ!まさかここまで手強いとは!
良く見ると、来ている車がどう見ても『一般客』のそれではない。
どうやら、近隣のレストランなど飲食店の仕入れで来ているらしい。それは必死だろう。
更に次の日。
僕は開店1時間前に、その農協へやって来た。流石にこの時間ならシャッター前の列も……いや、それでも『先頭』からは10人以上後ろである。
しかし、とりあえず前日よりはマシだと考えねば!
午前8時。
決戦の瞬間が訪れる。
僅かに開いたシャッターから、オッサン達が買い物カゴを片手に一斉に雪崩込む。
「う……うぉぉぉ!」
その熱気に押されながら、僕も店内へ突撃を掛けていく。
目指す『山口さん』の棚は最初に来た時にチェックしてある。そこへ、一目散にダッシュする。
く……っ! 先行しているオッサン共も、全く同じポイントを目指している! こうなったら完全に早い者勝ちだ!
人混みを掻き分けて、どうにかジャガイモの袋を握りしめる。
そして押しつぶされそうになりながら、隣にあった人参と玉ねぎも一緒にゲット出来た。
スーパーの品物と比べると形も不揃いで土も残ったままではある。それでも見た目からして強い生命力を感じる有機野菜だ。
「やった……ついに、入手した……!」
フラフラになりながら、会計へ持ち込む。
「……3点で、360円でーす」
レジのオバサンが、ぶっきらぼうに会計をしてくれた。
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