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「待て待て待て!」と、碧が清の前に立ちはだかる。「もふもふ最高」の意味は分からないが、碧が新しい夢を見つけて、それを実現するために頑張っている事は伝わってくる。何より、とても楽しそうな姿を見て、清は安心した。 「俺は見逃さなかったぞ!さっき、うさ耳をつけた宇佐美君にときめいていただろう!」  あの童顔純白うさ耳男は、宇佐美君というのか。なんともご丁寧に。清はおかげですぐに顔と名前を覚えた。  その宇佐美君が、うさ耳をつけていないバージョンで、2階へ上がってきた。 「青田先輩、俺達そろそろ帰ります。ハンバーガー、ありがとうございました」  わざわざ挨拶に来るところと「ありがとうございました」とちゃんという所に好感が持てる。俺が女子なら、うさ耳をつけていなくても、むしろつけていない方がときめくと思う。と、清は思った。 「ああ、ありがとう!また頼んでもいいか?」 「はい、俺達もミーティングする場所が欲しいんで」  宇佐美君に続いて階段を降り、見送りをする。降りきる前に野球部員達がこちらを見上げ「あざした!」「失礼します!」と口々に言い、手を振る。碧が「助かった、ありがとう」と振りかえすのを見て、清もお辞儀をし、控えめに手を振った。  野球部員の姿が見えなくなったところで、清も出口へ向かう。 「さて、俺も帰りまーす」 「そ、そうだ清!コーヒー、コーヒーを飲んでいかないか?」  土壇場で苦し紛れに出した提案だが、さすがに長い付き合いだけあって効果はテキメンだ。清は、カップのカフェオレでは満たされなかったコーヒー欲に支配され、歩みが止まる。碧が棚から急いで取り出した道具に、釘付けになった。 「せ、先輩!そのコーヒープレス、どこで!?」  銀色に光り輝くコーヒープレスは、内部が二重構造になっていて保温性に優れている。ひとつひとつ手作業で作られるそれは、諭吉が数人余裕で飛んでいく値段だったため、清が買いあぐねているうちに廃盤となってしまった代物だった。 「ああ、お孫さんは形から入る人だったので、道具一式はそろっているんだ」  コーヒープレスをじっと見つめ、けも耳とコーヒーを天秤にかける。清の葛藤に気付いた碧は、発破をかける。 「……もし、まる研に入ったならば、ここの道具は使い放題。コーヒーも飲み放題だ」 『あにまる研究会』は『まる研』と略すのか。確かに、あに研だとアニメ研究会を指すのが一般的であるから合理的な略し方だ。なんだか、それさえもかっこよく思えてきた。こうなってからは堕ちるのにそう時間はかからない。 「ちなみに『サイフォン』とやらも……」 「あにまる研究会、入部させていただきます!」 『あにまる研究会』は今春、部員一名の勧誘に成功。今日も部室棟の片隅で、熱心に活動を続けている。
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