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あに研、第一回課外活動。動物園にて。
「うわー!最初からレッサー!テンション上がるー!」
入場ゲートをくぐった途端、碧と史安はレッサーパンダが展示されている檻に突進して行った。
天候に恵まれた、GW真っ只中。市営動物園は、親子連れやカップルで賑わっている。
母親が小さな我が子に向けた「走ったら危ないよ」の声に、大学生約2名がドキリと身を縮めた事に噴き出したのは、どうやら清だけのようだ。
小さな子どもに混じって、同じくらいのテンションの大きなお友達が、レッサーパンダを見つめる。
「ふぁっふわだね!特に耳。見て、あの耳!」
史安が、ようやく追いついた清と蒼介の肩をぽんぽんたたいて促す。レッサーパンダの頭には、角のない白い三角がくっついている。確かにふわふわだ。
「史安さん、レッサーの耳、作りましょう!」
「勿論だよ、碧くん!これだけ見せつけられちゃあね」
碧は、この日の為に中古で買ったというデジカメで、レッサーパンダをあらゆる角度から撮影した。撮り終えた後、解説板を熱心に読んでいた史安に尋ねる。
「レッサーの耳には、どのような効果があるんでしょうか?」
「そうだね……えっと……へー、盲腸が無いんだ。お腹が痛くなくなるんじゃないかな!」
本当にそんな効果が有るのなら、世紀の大発見だ。
「それはいい!あっ!あっちにツキノワグマが居ますよ!」
「よし、突撃ー!」
清は「ツキノワグマに突撃したら、ただでは済まないな」と、考えながら蒼介を見る。
「俺たちは、のんびり行こうか」
「はい」
突撃隊2人は見落としたようだが、レッサーパンダエリアの隣に、コツメカワウソが展示されていた。蒼介の目が輝く。どうやら、あにまる研究会にただの付き合いで入部したわけではないようだ。
「陸でも川でも活動できるなんて、二刀流選手だな」
「二刀流……」
ユニフォーム姿の碧が頭に浮かぶ。一匹だけ、やけにテンションの高いコツメカワウソを見つけて、まるで誰かさんみたいだと思った。
「碧、元気になっただろ?」
蒼介が、おそらく同じコツメカワウソを目で追いながらぽつりと呟く。
「はい……無理してない感じになりました」
高校を卒業する頃の碧は、清や蒼介に心配をかけまいと、無理矢理明るく振舞っているようだった。
碧は中学の頃、地元では有名な球児だった。
通っていた中学の、清と蒼介が所属していた部活ではなく、外部のクラブチームで野球をしていた。2人は、練習試合や合同練習で何度も碧のプレイを見たことがあり、いつ見ても感嘆の声が漏れた。
碧はその頃、体格に恵まれていなかったが、正確なコントロールと足の速さで、投手も打者も両方できる選手だった。彼の恩師は口をそろえて「努力の天才」と称した。
高校に入ってからは、1番を背負い、持ち前の人当たりの良さと確かな実力で、チームを引っ張ってきた。
高2の夏、肘を痛めた碧は、必死のリハビリも虚しく、再びマウンドに戻ることは無かった。
「中学の時の監督、覚えてるか?」
「あの、いつもサングラスかけた小太りの?」
清は、まずその外見から思い出し、徐々に、バッティングでいつもダメ出しを喰らっていた事と、送球判断はいつも褒めてくれていた事を思い出した。
「そう。あの監督が独立して、チームを作ったんだ。高校卒業してすぐに俺も誘われて、碧を説得して一緒に入った」
「やっぱり、碧先輩、野球再開したんですね!」
いつぞやの、けも耳野球部を思い出す。
「ああ。しかも投手。肘も治ってたみたいだった」
余談だが、と蒼介は、史安との出会いも教えてくれた。大学内に手芸部があると聞き、ユニフォームのエンブレムと背番号の縫い付け等を依頼した。そこの部員が(と言っても、一人しかいなかったのだが)史安だった、と言う訳だ。応援用の巨大な横断幕を3人で作り、打ち解けたのだそうだ。
「そっか……だから、元気が戻ったんですね。やっぱり、蒼介先輩はすごいです!俺なんか、あの時なにも出来なくて、声すらかけられなかったし」
清は、自分で言った言葉に大分ダメージを喰らったようで、大きなため息を吐く。
「そんなことは無い、実際……」
「はい?」
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